『もらとりあむタマ子』に出演した前田敦子

「いつやるの? 今でしょ!」が流行語の昨今、前田敦子演じるヒロインが「少なくとも…今ではない!」と根拠のない自信と共に言い切るさまは心地よい。まもなく公開の『もらとりあむタマ子』のひとコマである。

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大学を卒業したはいいが、就職もせずに父が一人暮らしをする甲府の家に戻り、タイトルそのままに“モラトリアム”な時間を過ごすタマ子の姿を四季に分けて描き出す。

前田によると冒頭の「今ではない!」と言うシーンは「今でしょ!」が流行語となるよりも以前に撮影された。「先取りで流行語への反感を言ってる(笑)」とおかしそうに語るが、そもそも、本作は音楽チャンネル“MUSIC ON! TV”の番組の合間に流れる短いイメージ映像として作られたもので、当初は長編映画になる予定もなかった。「脚本も決まってたわけでもなくて『次、何しようか?』という感じ(笑)。みんな『映画になったらいいね』とは言ってたんですが、なるとは思わなかったし、最後の最後“夏編”を撮るときですら決まってなかった」というが、そんな“何となく”の映画化というのもこのタマ子というヒロインにふさわしい。

メガホンを握ったのは前田がヒロインを演じた『苦役列車』の山下敦弘監督。他の監督の作品や女優活動以外でカメラの前に立つことと山下作品の違いを前田はこう語る。「山下さんは奥の奥まで見透かしてくるんです。いい悪いじゃなく、ドラマの世界は“リアル”というよりも自分自身の場所という感覚が強くあって、深く追求するというよりは、どこまで自分自身を出せるか? という感じ。山下さんはさらにその奥まで追求してくるのでいつも“戦ってる”気がします」。

劇中、前田は驚くほど自然でリラックスした姿を見せる。これは山下監督に「要求された」自然体?「何も考えてない自然というよりは『奥に何かあるでしょ?』という自然を要求されている気はしますね。ただカメラの前にいるだけだと見透かされちゃう。最初の頃、前田敦子なのかタマ子なのか微妙すぎるという言い方をされました。『いまのは前田敦子だよ』って。自然になると、どうしても自分が大きくなっちゃう。そこのバランスは難しかったです」。

タマ子は決して特別な怠け者ではない。前田自身「私もAKB48に入ってなかったらこういう感じだったと思います」とも。「いまでもこうなりたいって気持ちもありますよ。いま2~3日の休みがあったら? 家から出ないですね(笑)」。

セリフも決して多くはない。四季に自然に反応し、変わっていく前田の表情に注目してほしい。

『もらとりあむタマ子』
11月23日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

取材・文・写真:黒豆直樹