1999年に発刊され“青春小説の金字塔”と称されるほどのヒットを記録した小説『ウォールフラワー』が映画化された。熱狂的なファンが多く、失敗すれば多くの読者からブーイングを受けるであろう原作を一体、誰が脚色し、監督するのか? 著者のスティーブン・チョボスキーは自ら脚本を執筆し、メガホンを執ることを決めた。
チョボスキーは大ヒットミュージカル『RENT/レント』の映画版脚本を手がけるなど映像の世界でも活躍しているが、『ウォールフラワー』の映画化になかなか着手することができなかったという。「本が出版されてから脚本に取りかかるまでの10年は”自分の運命”から逃げているような気分だった。他の作品の脚色やリライトをしてみたけど、満足しきれなくて、最終的には『自分で映画を作らなければ、満足を得られない』というところまで追いつめられたよ」。
映画は、高校入学初日から友達も作ることができずにパーティでも“壁の花(ウォールフラワー)”として過ごしている少年チャーリー(ローガン・ラーマン)がある日、パトリック(エズラ・ミラー)とサム(エマ・ワトソン)という上級生と出会ったことを機に、友情や恋、挫折を知っていく様を描いている。当然ながら、すべてのキャラクターとエピソードに思い入れの強い読者がいるが、そのすべてを映画化することはできない。「小説はチャーリーの主観で描いているけど、映画はエモーショナルで多様性のあるものにするため、キャラクターの個性や内面をしっかりと描く必要があった」という監督は、映画脚本を“俳句”のようなものだという。「映画はセリフと画を効果的に見せることで日本の“俳句”のようなものになるんだ。限られた要素を用いて、より多くのことを語り、描くことができるからね」。本作は、キャラクターのちょっとした会話や、背後に流れている音楽、衣装など様々な要素を駆使して繊細な青春時代の記憶を描き出している。
さらに監督を「観客の”鏡”になるように撮った」という。「100分の中に若い頃の愛情や友情や情熱を詰め込み、普遍的なドラマを作り出さなければならなかった。だから、観ている人が映画に参加してくれるような作品になるように、意識して製作したんだ。映画が上映され、観客が映画を終わらせてくれる。それが僕の希望だ」。すでに公開されている地域では多くの観客から「この映画の主人公は“私”だ」という感想が寄せられたという。決して爽やかなだけでも、明るいだけでもない、孤独で痛くて、少し恥ずかしい青春時代を描いた本作は、日本でも人気を集めそうだ。
『ウォールフラワー』
11月22日(金) TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
小説『ウォールフラワー』
スティーブン・チョボスキー著/田内志文訳
集英社
定価756円(税込)