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『マッド・ハイジ』(7月14日公開)

 スイスのチーズ製造会社の社長で大統領でもあるマイリ(キャスパー・バン・ディーン)は、自社製品以外の全てのチーズを発禁にする法律を制定し、独裁者として君臨する。

 20年後。ハイジ(アリス・ルーシー)は恋人で黒人のペーターや祖父(デビッド・スコフィールド)と一緒に山で暮らしていた。ところが、禁制のヤギのチーズを闇で売りさばいたペーターは、見せしめにハイジの眼前で処刑され、山小屋にいた祖父はマイリの手下のクノール司令官に包囲されて爆死する。ハイジは、マイリを血祭りにあげ、祖国を解放するべく立ち上がる。

 古典的な児童文学『アルプスの少女ハイジ』を、暴力や残虐シーン満載のR18+指定の作品として再構築。日本では高畑勲や宮崎駿が手掛けたテレビアニメとしても有名なだけに、ファンは、あまりのイメージギャップに度肝を抜かれるだろう。

 そんな本作は、ホラーやコメディーの要素も含んだスイス初のエクスプロイテーション映画であり、クラウドファンディングで製作資金を調達したのだという。

 エクスプロイテーション映画とは、1950年代以降に量産されたアメリカ映画のジャンルの一つで、興行成績を上げるため、センセーショナルな時事問題やタブーとされる題材をあえて取り上げる低俗なB級作品群のことを指す。

 つまり、最初から開き直って作っているので、ルール無用の何でもありの様相を呈する。そこが面白いといえば面白いし、くだらないといえばくだらない。

この映画も、オープニングのパラマウント映画のトレードマークのパロディーに始まり、ナチスドイツや収容所物、ゾンビやスプラッター、カンフーや女戦士といったさまざまな映画のパロディーが見られる。中でも、チーズフォンデュによる拷問は傑作だった。

 そして、冒頭のテロップで“映画愛”をうたっているだけに、映画好きな人が見れば思わずニヤリとするところも多々あるのだが、スプラッター的な要素が強いので、見る人を選ぶ映画でもあることは否めない。ただ、もとより万人受けを狙って作っているわけではないので、これはこれでいいのだろう。

『ヴァチカンのエクソシスト』(7月14日公開)

 1987年、アモルト神父(ラッセル・クロウ)はローマ教皇(フランコ・ネロ)から、スペインのサン・セバスチャン修道院に住むある一家の、ヘンリーという少年の悪魔払いを依頼される。少年の様子を見て悪魔の仕業だと確信したアモルトは、相棒となった若きトマース神父(ダニエル・ゾバット)と共に本格的な調査を開始する。

やがて彼らは、中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行っていた宗教裁判の記録と、修道院の地下に眠る邪悪な魂の存在を知ることになる。

 カトリック教会の総本山バチカンのローマ教皇に仕えた実在のエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の回顧録を映画化。クロウがホラー映画に初主演。監督はオーストラリア出身のジュリアス・エイバリー。

 リンダ・ブレアが、悪魔に取りつかれた少女を演じて伝説となった『エクソシスト』(73)から50年。この映画のアモルト神父の現実に即した思考や行動、悪魔つきとされる人の98パーセントは精神疾患によるものというせりふなどに、時代の変化を感じる。

 西洋とは宗教観が違う日本では、クロウのけれん味たっぷりの演技のせいもあって、悪魔払いの様子がコミカルに思えるところがあり、宗教観は除いたところでの娯楽作としても楽しめる。アモルト神父とトマース神父のバディ物としてシリーズ化されるかもしれない。

(田中雄二)