『マラヴィータ』(C)EUROPACORP- TF1 FILMS PRODUCTION - GRIVE PRODUCTIONS Photo : Jessica Forde

ヨーロッパコープを率いて、『トランスポーター』『96時間』の両シリーズに代表される“フランス製ハリウッド映画”を連打しているリュック・ベッソン。この異能のヒットメーカーがロバート・デ・ニーロ&マーティン・スコセッシというマフィア映画の黄金コンビとタッグを組み、米仏の合作企画を実現させた。

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デ・ニーロ扮する主人公フレッドは、仲間を密告してFBIの証人保護プログラムを適用された元マフィアのボス。95年の『カジノ』を最後に本格的なマフィア映画から身を退いたデ・ニーロは、『アナライズ・ミー』で自身にこびりついたマフィアのイメージをパロディ化し、その後もコワモテを逆手に取ったコミカルな役柄を演じてきた。今回も持ち前の凄みと枯れた風情を巧みに使い分け、悩み多き癇癪持ちの元マフィアをさすがの存在感で体現している。

ベッソンの立派なところはパロディとオマージュの違いを心得て、きっちりと後者に仕上げたことだ。作家と偽ってフランスの隠れ家に滞在する主人公が、地元の映画鑑賞会のトークゲストに招かれるエピソード。そこでの上映作品はスコセッシ&デ・ニーロの『グッドフェローズ』だ。主人公がこのマフィア映画に見入りながら心の平穏を取り戻す人生回顧のドラマが、デ・ニーロ自身のキャリアとオーバーラップし、リスペクトのこもったユーモアに結実した。

また、この映画はマフィアのファミリー(一族)と主人公のファミリー(家族)を引っかけたコメディでもある。妻は接客態度の悪いスーパーマーケットを爆破し、娘はテニスラケットで同級生男子をノックアウト、息子は裏番長として学園を支配していく。マフィアの血筋をひく荒くれ一家が炸裂させるバイオレンスの何とシュールでドライなこと!そしてノワールなセピアカラーのクライマックスで繰り広げられるのは、主人公一家と殺し屋一族の大決戦。マフィア映画への心憎い目配せを満載しつつ、ファミリー映画でありながら家族の“絆”を謳わない本作は、死屍累々なのに後味はすっきりという奇妙なテイストの快作となった。意外にも初共演のデ・ニーロとFBI捜査官役トミー・リー・ジョーンズの愉快な掛け合いもお見逃しなく。

『マラヴィータ』
公開中

文:高橋諭治