濃密な心理描写や独創的アクションシーンなど、見どころは読者によって異なると思うが、記者が注目したいのはパラサイトという存在を通じて描かれる“対比”のおもしろさだ。

最初こそケダモノじみていたパラサイトたちは急速に理性を身につけて、本格的な社会進出を目ざすほど組織化されていく。逆に人間側は話し合いという選択肢を投げ捨て、武力による鎮圧を試みる。読んでいくうちに野蛮さの逆転現象が起こり「人間らしさって何だろう?」と考えさせられる。

この対比は主役コンビの新一とミギーにも当てはまる。当初は弱々しかった新一だが、何度も戦いに巻き込まれ、大切な人を失っていくたびに別人のような強さを身につける。逆にミギーは新一と深く関わり、彼の苦悩を知っていくうちにどんどん人間っぽくなる。そんな2人(?)に芽生えた友情が行き着く先は……読むたびに心打たれるものがある。

まさかの展開で読者を驚かせた最終回、そしてタイトルの『寄生獣』とは誰を意味するのかも含め、とんでもなく深く奥行きをもった作品である。
 

異質な生命体に人類が脅かされるといえば最近ブームとなった『進撃の巨人』を連想させられるが、あちらは世界観の謎を読み解くミステリー要素も強く、読んだ印象はかなり異なる。

『進撃』にハマった人もそうでない人も、この『寄生獣』は一読の価値ありだ。

 

マイナー作?…実は1000万部を突破していた!

『寄生獣』といえば長らく“カルトな人気を誇るややマイナーな作品”という印象が強かったが、このほど映画化の発表記事により発行部数が1100万部に達すると知って驚いたファンも多いことだろう。

2億部超えの『ドラゴンボール』『ONE PIECE』あたりは別格として、メディアミックスされないまま1000万部に達した作品は、記者の記憶にもほとんどない。しかも完結して20年近く経った現在でも売れ続けているというのだから、持続力という意味では間違いなくトップクラスだろう。

連載時から読者の評価はかなり高く、プロの作家や評論家にも絶賛されていた。講談社漫画賞を獲得したのも連載中のことである。ほかに1990年代前半の講談社漫画賞には『沈黙の艦隊』『課長島耕作』『ナニワ金融道』などが輝いており、当時の世相がうかがえる。

寄生生物ネタは『寄生獣』の専売特許というわけではないが、本作がヒットしてから日本のサブカルチャー界でも「人体の一部が○○に変わって共同生活」という設定が目立ってきた。バトル物から王道ラブコメまでその範囲は果てしなく広い。

全世界で500万本以上を売り上げた人気ホラーゲーム『バイオハザード4』には、寄生体によって人間の頭部が武器に変わるという、外見・設定とも『寄生獣』そのままといえる敵が出現したりもした。日本のみならず海外読者からも好評で、英語版は2度にわたって翻訳されている。