前田司郎監督

劇団・五反田団主宰、作家、脚本家など、いくつもの顔を持つクリエイター、前田司郎。演劇界をはじめ各界で高い評価を得る彼だが、近年は沖田修一監督の『横道世之助』の脚本を手掛けるなど、映画界でもその存在が注目を集めている。その彼が今度は映画監督に挑戦! 自ら脚本も手掛ける『ジ、エクストリーム、スキヤキ』を完成させた。

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これまで脚本家や原作者として映画界と関わってきたとはいえ、監督を務めるというのはまた別の話。でも、本人は監督業への気負いや不安はなかったと語る。「創作に関してはいつまでも素人でいたいというか、中途半端にこなれてしまうのが最も危険だと思っていて。一種のマンネリに陥らないよう自分を一度リセットできる新たな挑戦に意識的に取り組むようにしているところがあります。実は小説や脚本の執筆への挑戦もそうで。だから、今回の監督へのトライもそのひとつでためらいはありませんでした」。

「人によっては映画や映画監督に必要なことを徹底的にリサーチして取り組むと思うのですが、僕はいろいろなことに影響を受けてしまうタイプで。下手にいろいろと知ってしまうとセオリーとかにとらわれて“これは映画に対して失礼”とか思って遠慮をしてしまう。それでは僕が映画を作る意味はあまりないなと。ですから、ここはもう新参者として勝負しようと腹を括りました」と、まっさらな状態から映画作りを始めたともいう。

こうして出来上がった作品は、男女4名が1泊2日の小旅行へ繰り出す物語。海へ向かう車中での会話や4人のスキヤキ鍋を囲むといった何気ないシーンから、名もなき人間やかわり映えのしない日常にも実は存在するかけがえのない一瞬が浮かび上がる。監督は「大切にしたのは現実の感覚。僕らが生きている現実は、映画やドラマによくある作り物の話や世界のように美しくはない。借り物の美しさではなく、現実の中にある人間の美しさや愛しさが出せたらと思いました」と語る。

初挑戦を終えた今を前田監督は「井浦新さん、窪塚洋介さんをはじめ、いい役者も揃ってくれて、もっと出来たこと、もっともっと大胆に挑めたことがあったかもしれない」と少々の反省の弁を口にして振り返りながらも「自分ならではの映画作りがなにかひとつつかめた気がする。またチャンスがあったらトライしてみたい」と次を見据える。

稀代のクリエイターとして各界から注目を集める前田司郎の記念すべき監督デビュー作に注目を!

『ジ、エクストリーム、スキヤキ』
公開中

取材・文・写真:水上賢治