柳楽優弥

 映画『さかなのこ』や『ゆとりですがなにか インターナショナル』など、多数の出演作が控える柳楽優弥。8月22日からは、Amazonオーディブル(以下、Audible)で村上春樹の「パン屋再襲撃」が配信される。同サービスは、プロの声優や俳優が朗読した本や多様なポッドキャストが楽しめる音声エンターテインメントサービス。今回、配信される「パン屋再襲撃」は、表題作のほか「象の消滅」、「ねじまき鳥クロニクル」の原型となった作品など、村上初期の傑作6篇を収録した短編集だ。柳楽に朗読収録時の思い出やAudibleというサービスについて、さらには俳優業への思いなどを聞いた。

ー柳楽さんは、Audibleというサービスは以前から知っていましたか。

 僕は、主に英語の勉強に使っています。今回、参加した小説の朗読のようなものもありますが、英語をはじめとしたコンテンツも多いんですよ。

ー英語の勉強ですか。

 お仕事で英語を話す機会もいただくので、やっぱり英語は話せたほうがいいなと思って今、頑張っています。

ーそうすると今回、オファーがあったときにはAudibleになじみはあったんですね。実際に朗読をしてみてどんな感想を抱きましたか。

 想像以上に大変でした(苦笑)。村上春樹さんの世界観が表れている文章は独特で難しかったです。収録にもかなり時間がかかりましたし、コツコツと積み上げていく作業を続けるので大変ではありましたが、村上春樹さんの作品を声に出して読むことでたくさんの発見もありました。キャラクターの感受性がとてもユニークで、ユーモアを感じる場面も多く、そうした“村上イズム”を普段から持てたら、ふとしたことで笑って過ごせそうだなと思いましたし、改めて村上春樹さんの本が好きになりました。

ー村上春樹さんの本は、普段から読んでいるのですね。

 僕の初舞台出演が「海辺のカフカ」という村上さんの小説を原作とした、蜷川幸雄さん演出の舞台でした。僕の中ではとても思い出深い作品ですし、村上春樹さんの本は大好きです。その舞台のときに、1度だけお会いしたのですが、とてもすてきな方で、世界観も大好きですし、今回、お仕事をいただけて喜んでやりたいという気持ちになりました。

ー舞台「海辺のカフカ」に出演した経験は、今回、役立ちましたか。

 “村上さんワールド”とでもいうような、独特なせりふ回しがあるので、それをどう伝えれば伝わりやすいのかという点では役立ったのかもしれません。Audibleは、声だけで伝えなくてはいけないので、そうした難しさがありますね。

ー今回のAudibleの収録は、吹き替えの仕事ともまた違うものなのでしょうか。

 そうですね、淡々と読み続けるという感覚です。ただ、もちろん滑舌やどこを強調して読むかなど、ディレクターの方に指導していただきました。実はまだリテイクが残っているので、この後もまた収録です(笑)。

ー吹き替えも含め、声の仕事については、どんな思いがありますか。

 自分ではあまり得意だとは思っていないです(苦笑)。やはり声優さんはプロですばらしい技術を持っていらっしゃいますから。ただ、今回は、大好きな村上春樹さんの作品だったので、チャレンジしてみようという気持ちで挑みました。村上さんの世界に浸っていられた時間は幸せでもありました。

ー今回朗読した「パン屋再襲撃」の面白さはどこにあると思いますか。

 何十年経っても色あせないということだと思います。僕が生まれるよりも前の、86年の作品なんですが、今、僕が読んでも面白いと感じる。Audibleの場合は、例えば、電車やバスに乗っているときに聞いていたら、たまたま電車やバスの中のシーンが出てきたりする。現実と村上さんの世界観が重なる瞬間が生まれるというのが面白いところだと思います。

ーでは、柳楽さんが俳優として活動し、お芝居をする上で、どんなことを大切にしているのかを教えてください。

 年齢によっても変わるとは思いますが…きちんとせりふを覚えるといった当たり前のことを当たり前にやるというのが大事にしていることです。理想を言ってしまえば、自分がそれに関わってみたいと心から思える作品に関わりたいなとは思っています。

ーそれは例えばどんな作品ですか。

 20代の頃にたくさんの作品に出演させていただき、自分の好みや自分に合っているものに気付けたので、30代はより自分に合った、面白い作品に関わりたいと思っています。

ー演じることの面白さはどんなところに感じていますか。

 たくさんあるとは思いますが、現場に入ってパワーを感じることができるときに面白い仕事だなと思います。同世代や年下のディレクターの方とも仕事をする機会が増えてきて、新たなエネルギーを感じるんですよ。やっぱり若い世代の人と出会うと新しさや新鮮さを感じます。僕が知らない流行りを教えてもらったり、話を聞かせてもらうのも楽しいです。

ーでは、柳楽さんが目指す理想の俳優像は?

 ヘルシーでいたいなと思います。Amazonもそうですが、今は配信サービスが充実していて、日本の作品をいろいろな国で見ることができるようになったので、可能性が広がっている気がします。なので、もちろん、そうした作品にも積極的に参加していきたいと思います。ただ同時に、自分は日本の俳優であるということを大切にしたいとも思っています。“日本の俳優”や“銀幕スター”が大好きなんですよ。日本で“銀幕スター”と呼ばれるような方たちに少しでも近づけるように頑張っていきたいです。

ーちなみに、普段は、どんな作品を好んで観ているのですか。

 映画では、国際映画祭で賞を受賞しているような作品はよく観ています。例えば『ドライブ・マイ・カー』とか、村上春樹さんの作品もそうですが。配信サービスで映画もドラマも見ますし、韓国ドラマも好きでよく見ています。何でも見ますね。

ー柳楽さんが今、ハマっているものは?

 最近、トランペットを始めました。歳を重ねても遊べる楽器が欲しいなと思って始めたのですが、本当に難しくて。全然上手になりません(苦笑)。

ー改めて、読者にメッセージを。

 今回、村上春樹さんの世界観を約3時間で味わえる、「パン屋再襲撃」の朗読がAudibleより配信されます。視覚ではなく、聴覚だけでその作品の世界観に浸れるというのは、すごく新しい体験だと感じています。よりイメージが膨らんだり、自分の現実の世界とうまく混ざったりする面白さもあって、映像とはまた違った魅力があるのがAudibleです。どこでも聴けるというメリットもあります。ぜひ、たくさんの方に聴いていただき、この魅力がどんどん広まっていったらいいなと思います。

 Audible「パン屋再襲撃」は、8月22日から配信開始。