『プレーンズ』で声のキャストを務めた井上芳雄

数々の舞台で活躍する俳優の井上芳雄が、ディズニー映画最新作『プレーンズ』の日本語版で、陽気でお調子者の飛行機“エル・チュー”ことエル・チュパカブラを演じている。“ミュージカル界のプリンス”と称される彼とは少しイメージが異なる役どころだが、そこには彼の“新たな想い”がこめられているようだ。

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本作は、飛行機なのに高所恐怖症に悩まされている農薬散布機ダスティが周囲の声に負けず、恐怖に立ち向かいながら世界一周レースで優勝する夢を追う姿を描いた感動作。エル・チューはメキシコ代表のスターで、レース中にひと目惚れした日本代表の飛行機サクラとの仲を応援してくれるダスティに友情と恩を感じ仲間になる。

最初にエル・チューの役が来たときは「本当にビックリした」という井上だが「俳優というのは“任”ではないものを振られるとうれしいものなんですよ。だから『このような役が振られるようになったか』と感慨深かったですし、うれしかった」と振り返る。しかし、全身を駆使して表現する舞台と異なり、収録で使えるのは“声”だけ。さらに収録はひとりで行ったという。「難しかったです。舞台だと目の前のいる人の反応をもらって、化学変化を起こしながら作っていくんですけど、今回は監督の方に引っ張っていただいて、少しずつ掴んでいった感じです」。

それでも困難を極めたのはエル・チューの登場シーンだ。いつもハイテンションなエル・チューは登場したときからトップギア。井上は「いつも“セニョール!”とか言いながら登場するんですけど、アニメーションなので喋り出しが決まってるんですね。そのタイミングでテンションを用意するのが難しかったですね」。彼がハイテンションで登場し、周囲のキャラクターを巻き込み、時に情熱的に歌う場面は必見だ。「30歳を過ぎてから低い声が出るようになってきたんですね。ムーディな場面では低い声だったり深みがないとダメなので、この年齢でエル・チュー役に出会えたことは良かったですね。少し喋っただけでも“クセ”や“役への態度”はわかる人にはわかってしまう。だから声だけでも自分の“履歴書”のようなものだと思っています」。

近年ではミュージカルだけでなく『組曲虐殺』『負傷者16人』など重厚なストレート・プレイでも高い評価を集める井上にとって、エル・チュー役は新たな挑戦だ。「舞台を愛しているからこそ、外に出て行くことで“見えなかったもの”が増えていく気がします。外に出て行くことは遠回りのようで実は近道」と語る井上は、今後も“声”の仕事をしていきたいと笑顔を見せる。「最初は『このキャラクターをできるのだろうか?』と思いましたけど、今はエル・チューが愛しくてしょうがない感じです。初めて声をやったキャラクターでもありますし、長く愛されるキャラクターになるとうれしいです」

『プレーンズ』
12月21日(土) 2D・3D同時公開