(C)2023映画「春に散る」製作委員会

『春に散る』(8月25日公開)

 不公平な判定で試合に負けたことをきっかけに渡米し、ボクシングをやめた後はホテル業界で成功した広岡仁一(佐藤浩市)が引退し、40年ぶりに帰国した。一方、黒木翔吾(横浜流星)は、同じく不公平な判定負けを喫してグレていた。

 2人は、偶然居合わせた飲み屋でのトラブルから、路上で拳を交わす。仁一に人生初のダウンを奪われた翔吾は、ボクシングを教えてほしいと懇願する。

 心臓に病を持つ仁一は、最初は断るが、かつてのボクシング仲間である佐瀬(片岡鶴太郎)のアドバイスもあり、引き受けることに。仁一は翔吾に激しいトレーニングを課し、ボクシングを一からたたき込んでいく。

 やがて翔吾は、仁一の古巣のジムに所属する大塚(坂東龍汰)を破って東洋太平洋チャンピオンとなり、世界チャンピオンの中西(窪田正孝)とのタイトルマッチが決まるが…。

 沢木耕太郎の同名小説を瀬々敬久監督が映画化。沢木といえば、『敗れざる者たち』(76)『一瞬の夏』(81)『王の闇』(89)など、ボクシングを扱ったルポルタージュの著作が数多くある。

 タイトルの関連性もあり、翔吾と仁一のモデルは、『一瞬の夏』のカシアス内藤とエディ・タウンゼントだろうと思ったが、小説の骨格は、高倉健をイメージして書いた映画のシノプシスが基になっているという。

 さて、映画の方は、登場人物の性格描写の弱さ、先に公開された『クリード 過去の逆襲』同様、マッチメークがとんとん拍子に進み過ぎる点には甘さを感じさせられたが、横浜、坂東、窪田のリアルなボクシングシーンが、それを補って余りあるものにしていた。

 一方、ボクシング経験者の鶴太郎はさすがの動きを見せるが、佐藤がやつれて動きが鈍く見えたのは役作りのせいだったのだろうか。

 また、『あゝ、荒野』(17)『アンダードッグ』(20)『生きててよかった』(22)といった最近のボクシングを扱った映画が、ボクシングとセックスを無理やり結びつけて描いているところに違和感を覚えたが、この映画は久しぶりにストレートなボクシング映画になっており、好感を持った。

『MEG ザ・モンスターズ2』(8月25日公開)

 潜水レスキューのプロ、ジョナス・テイラー(ジェイソン・ステイサム)は、海洋調査チームと共に地球上の最深部であるマリアナ海溝へ潜り、人跡未踏の深海へと向かう。

 そこで彼らは、見たこともない大きさとどう猛さで生態系の頂点に君臨する「メガロドン(Megalodon)」=通称「MEG(メグ)」の群れと、別種の巨大生物に襲われる。テイラーたちは何とか難を逃れるが、それらが観光地のビーチに襲来し、人々を恐怖に陥れる。

 巨大ザメの恐怖を描いた海洋パニックアクション『MEG ザ・モンスター』(18)のシリーズ第2弾。

 前作からは、ステイサムのほか、クリフ・カーティス、ソフィア・ツァイ、ペイジ・ケネディが続投。新キャストとして中国の人気アクション俳優ウー・ジンらが参加した。監督はベン・ウィートリー。

 前作同様、米中合作のため、またもや中国側に忖度(そんたく)したのか、前作のリー・ビンビンに代わったウー・ジンがステイサムと並び立つような活躍を見せる。

 そして、第1作ではなかなか姿を見せなかったメグが、群れになって現れるのは、『エイリアン』(79)から『エイリアン2』(86)と同じパターン。ステイサムの極端なヒーローぶりも笑える。

 このように、全体的に香港のB級映画のようなチープ感が漂うのだが、と同時に、そこがまた面白いと感じさせるところにこの映画の不思議な魅力がある。

 潜水艇で海底を行くシーンとそれに続く危機のシーンでは、先日のタイタニック号見学の潜水艇「タイタン」の事故が思い起こされ、怖さが倍増した。

(田中雄二)