新作『ブリングリング』が間もなく公開になるソフィア・コッポラ監督

最新作『ブリングリング』が14日(土)から公開になるソフィア・コッポラ監督が先ごろ、約3年ぶりに来日し、取材に応じた。

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映画は、実話をベースに、ハリウッドセレブを標的に窃盗を繰り返した若者たちの青春群像劇。ソーシャルメディアを介して、犯罪自慢をし、自らセレブ化する彼らの“陶酔”は、勤務先での悪ふざけをSNSにアップし、炎上を巻き起こす日本の若者に通じるものがある。「日本にもそんな現象があるのね。ソーシャルメディアと、後先考えない子供たちが結びつくのは危険だし、今後も予想外の弊害が生まれると思うわ」とコッポラ監督は警鐘を鳴らす。

映画は華やかなセレブ界に憧れる若者たちが窃盗団“ブリングリング”を結成し、パリス・ヒルトンや、オーランド・ブルーム、リンジー・ローハンといった著名人宅で盗みを繰り返していく姿とその顛末を描く。「実際に起こった犯罪事件を映画化するのは初めて。ありがちな“実録もの”にはしたくなかったし、自分のスタイルをキープするのは、私にとって大きな挑戦だった」(コッポラ監督)。

『ロスト・イン・トランスレーション』『SOMEWHERE』など一貫して、主人公が直面する“自我の模索”をテーマに掲げてきたが、「誰にも若気の至りはあるもの。でも彼らの行為はあまりに極端で、まったく共感できなかった」といい、「皮肉にも犯罪を重ねるうちに、彼ら自身が注目の的になってしまった。逮捕後も大きなサングラスをかけたり、すっかりセレブ気取りなのよ(笑)。何だか癪(しゃく)に障るから、映画では実名を一切使っていないわ」と突き放す。

それでも「悪いのは彼らだけじゃない。問題は今のアメリカ全体が、セレブに対して過度なあこがれや関心、そして幻想を抱いている点。同時に、特定の価値観を押し付けようとするセレブもいるし、すべてがアンバランスだと思うわ」と米社会が抱える構造的な問題も見逃さない。「そのせいで、若者たちがアイデンティティーを模索し、成熟する以前に、過剰な情報と混乱にのみこまれてしまうんだと思う」と分析した。

エマ・ワトソンら若手実力派キャストが勢ぞろいし、ファッションや音楽など最先端のトレンドをふんだんに盛り込むなど、『ブリングリング』にはコッポラ監督らしい見どころも満載。そこに日本の“SNS炎上騒ぎ”とも通底する問題提起が加わった、まさに新境地といえる野心作である。

『ブリングリング』
12月14日(土) 渋谷シネクイント ほか 全国順次ロードショー

取材・文/内田涼