『プレーンズ』を手がけたクレイ・ホール監督

ディズニーの新作アニメーション映画『プレーンズ』が間もなく公開される。本作の監督を務めたのはクレイ・ホール。“カールじいさん”のような優しいルックスが印象的なベテラン監督だが、なぜ彼は最新の3DCGを駆使した本作の監督に就任したのだろうか?

その他の画像

映画は、飛行機なのに“高所恐怖症”に悩まされている農薬散布機ダスティが周囲の声に負けず、恐怖に立ち向かいながら世界一周レースで優勝する夢を追う姿を描いた感動作。小さな子も楽しめるアニメーションだが、映画ファンは劇中の飛行シーンの圧倒的なクオリティの高さに驚かされるはずだ。「飛行シーンをいかにリアルに感じてもらえるか、80人近いスタッフと6か月かけて試行錯誤を繰り返した」というホール監督は当初「フレームの中でキャラクターを速く動かせばいい」と考えていたそうだ。「でも、全然うまくいきませんでした。時には飛行機がヒモで吊るされているようにしか見えないこともありました。そこで航空学のエキスパートに参加してもらって、重量感や旋回したときの重力のかかり方など、力学的なことを考慮に入れたんです。作業的には苦労の連続でしたが、航空畑の人からは『実写でもアニメでもここまで飛行という表現を真に捉えている映画は初めてだ』と言われましたよ」。

さらに驚くべきは、監督たちが緻密に描いた飛行描写のすべてが“キャラクター表現”に活かされていることだ。リサーチを積み重ねてCGで再現してもそれは単なる“シュミレーション”でしかない。しかし、本作では主人公ダスティが旋回し、翼に重力がかかると、彼の顔は苦しみで歪む。向かい風が吹くと不安な顔に、太陽を浴びながら風を切って飛ぶシーンでは晴れやかな表情になる。「最初からリアルさを追求しながら同時にキャラクターの感情を表現したいと思いました。ポイントはキャラクター表現を出し過ぎないこと。リアルさと表現のマジカルなバランスを見つけなければなりませんでした」。

ホール監督は、積み上げたデータを完璧に画面に反映させ、空間のあらゆる場所にカメラを置くことができるCGアニメの利点を活かしながら、手描きアニメが持っている感情表現の豊かさや空間の捉え方をしっかりと作品に盛り込んでいる。「若いスタッフの中には絵を描けないCGアーティストもいますが、私も(ディズニーのクリエイティブ部門を束ねる)ジョン・ラセターも手で絵を描くこと、美術を学んで研究することは大切なことだと思っているんです。3DCGであっても“絵を描くこと”が表現につながるわけですから」。

『プレーンズ』は全編が3DCGで描かれた作品だが、大空を舞う主人公ダスティの姿を観ると、本作がなぜディズニーで製作されたのか? なぜ手描きアニメの時代からキャリアをスタートさせたホール監督が参加したのかが直感的にわかるはずだ。

『プレーンズ』
12月21日(土) 2D・3D同時公開