『CHESS in Concert』開幕 『CHESS in Concert』開幕

来年2014年にはデビュー40周年を迎える世界的ポップグループ、ABBA。そのメンバーであるベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースが作曲を手掛け、伝説と呼ばれるミュージカルが『CHESS』だ。彼らが生み出したその名曲の魅力を中心にコンサート形式で贈る『CHESS in Concert』が12月12日、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。

「CHESS in Concert」チケット情報

物語は米ソ冷戦下、チェスの世界選手権でチャンピオンの座をめぐる戦いを繰り広げる男たちと、その裏にある国家の対立、さらにその狭間で翻弄される女性の姿を描くもの。劇中ナンバー「One Night in Bangkok」などは英語圏では知らない人はいないと言われるほどだが、日本ではまだ知名度は低い中、2012年の日本初演では、拍手と歓声で劇場が揺れるほどの大熱狂となった。まさに日本でも“伝説のミュージカル”となったわけだが、今回もこの楽曲の良さを存分に活かす圧倒的な歌唱力を持つキャストが揃った。メインキャストは初演に続き安蘭けい、石井一孝、中川晃教。さらにマテ・カマラスが初参戦。アメリカ代表・フレディ役の中川は、“天才”らしい奔放さとそれゆえの孤独を、圧倒的に伸びやかな歌声で響かせ、劇場空間を支配してしまうほどの熱唱。ソ連代表・アナトリーを演じる石井は深みのある歌声で、大人の男性らしい落ち着きと知的さ、苦悩を聴かせ、ふたりの男性の間で揺れるフローレンスを演じる安蘭も突き抜けるような迫力の歌唱で、悲しみの中にも女性の強さを感じさせる。日本ミュージカル界を代表する俳優たちの素晴らしい歌声で、素晴らしい名曲を聴ける幸せを噛みしめることが出来る。さらにウィーン・ミュージカル界のスター、マテ・カマラスが、その歌唱力はもちろんのこと、チェスの世界を支配するアービター(審判)役にマッチし、異次元から人間たちの世界を睥睨するような構造を生み出していて面白い。

物語としても今回は初演に比べ、チェスの試合の裏に見え隠れする国同士の陰謀合戦という面が強調、複雑な心理も浮かび上がり、パワーアップ。演出の荻田浩一によれば、チェスというゲーム自体も、また東西冷戦も日本人にとっては縁遠いため、初演ではシンプルな構造になったとのことだが、より物語本来の形に近づいた今回、おそらく制作者が懸念したであろう難解さはほとんど感じられない。むしろ、物語の裏を読み、登場人物の深い心理に思いを馳せるというのは、日本の観客の得意とするところではないだろうか。今回、進化した『CHESS in Concert』で、さらに本作の熱狂的ファンが増えるに違いない。

東京公演は12月15日(日)まで。その後、12月21日(土)・22日(日)に大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて上演される。チケットはともに発売中。