『ゼロ・グラビティ』を手がけたアルフォンソ・キュアロン監督

サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーが共演する映画『ゼロ・グラビティ』が本日から公開されている。本作はその圧倒的な映像が話題を集めているが、最大の魅力は“宇宙空間”でも“3D”でもない、と書くと多くの人が驚くのではないだろうか。来日したアルフォンソ・キュアロン監督にこの意見をぶつけたところ「その通り!」という答えが帰ってきた。

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本作は宇宙空間で突発的な事故に遭遇し、無重力(ゼロ・グラビティ)空間に放り出されたメディカル・エンジニアのライアン・ストーン博士(ブロッ ク)とベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(クルーニー)が地球との交信手段も絶たれ、酸素残量が2時間になってしまった状態から生還を試みる姿を描いている。

この映画は冒頭からラストまで圧倒的に美しく、計算し尽くされた映像で語られる。ひとつのショットは限りなく長く、カメラは無重力空間を遊泳するかのように縦横無尽に動き回る。キュアロン監督とスタッフたちは“まだ誰も観たことがない映像世界”をスクリーンに出現させるために徹底的に研究を重ねたという。しかし、監督は「いつも私たちは撮影中に起こった出来事やアクシデントを盛り込むようにしています。撮影監督のエマニュエル・ルベッキはそれを“ミラクル”と呼んでいます」と語る。

通常、名シーンは“完璧なショットを目指して撮影を繰り返す”か、“奇跡的な瞬間を偶然に撮影する”ことで実現する。しかしキュアロン監督は『ゼロ・グラビティ』でそのふたつを一度に実現しようとした。つまり、入念に準備を重ねて“ミラクル”を創造する挑戦だ。「その通りです! この映画では事前にすべてをプログラミングしなければなりませんでした。だから自分たちでアクシデントやミラクルを思いつかなければならなかったんです。チーボ(ルベッキ)と私はずっと自然光で撮影することにこだわってきましたが、この映画では実際に宇宙に行くことができません。だから、先ほどの“ミラクル”同様、自然環境も自分たちでゼロから作り出す必要がありました」。

この映画はすべてが計算し尽くされた作品だ。しかし、ここで描かれるのは“アクシデント”であり、“偶然の連鎖”である。そのふたつが極めて高い精度でスクリーンに描き出されていることが本作の最大の魅力ではないだろうか。「それは最大のホメ言葉だと思います。脚本作りの段階では宇宙のことは考えていなかったんです。私は“逆境こそが人間をカタチづくる”というテーマに興味があったのです。私がこの映画の舞台を宇宙にしたのは、宇宙(SPACE)という空間が、潜在意識(INNER SPACE)、つまり心に近いと考えたからです」。

繰り返しになるが、本作は圧倒的な映像体験が味わえる作品だ。と同時に”ミラクル”と“逆境”を体験できる映画でもある。そのふたつがあわさった時にどんなドラマが立ち上がるのか? 劇場のスクリーンで主人公たちと共に体験してほしい。

『ゼロ・グラビティ』
公開中