新作『麦子さんと』が間もなく公開になる吉田恵輔監督

『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』などの作品で人気を博す吉田恵輔監督が堀北真希を主演に迎えて新作『麦子さんと』を完成させた。「これまでにない新しいことをやってみたい」と本作を撮りあげた吉田監督の真意とは? 公開前に話を聞いた。

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『麦子さんと』は、声優を目指してバイト中の主人公・麦子が、亡くなった母・彩子の故郷を訪ねたことから、これまで知らなかった母の一面を知り、長らく疎遠だった母との関係を改めて見つめなおしていく過程を描いている。

「自身が母親に思っている感情を映画で表現したかった」という吉田監督が本作に着手したのは8年前。「今まで母親が出てこないものばかり作ってきたんで、一度、真面目に向き合うと思ったんです」。しかし、脚本作りは二転三転する。「今回の映画は自分の母親に見せたかったんですけど、恥ずかしがり屋なのでどうしても感情を“変化球”にして描いていて、これじゃ伝わらねぇな、と。でも『さんかく』『ばしゃ馬…』と自分っぽい映画が続いたので、自分の中でいちばん“スタンダード”な映画を作ろうと。今まで観てくれたお客さんが『あれ? あの監督の映画だっけ?』って思ってもいいかな、と思ったんです」。

本作にはこれまでの吉田監督作品からは想像もできないほど、まっすぐな愛情やドラマが描かれている。そんな中で堀北は、母に対して屈折した想いを抱く麦子と、その母・彩子の若き日を演じ分けている。「最初に回想シーンの母親のことを考えて、透明感があって、可愛くて、急にいなくなったら心に穴が開くほどの娘……と考えると堀北さんは100点満点なんですね。それに麦子役で堀北さんのこれまで見たことない面を見せたかった。ずっとハキハキ喋る掘北さんばっかり見てきたから、こういう役は“できない”かもと思ったんですけど、単にそういう役が来ないので“やってない”だけだったんですよ」。

とは言え、本作のそこかしこには吉田監督のテイストがたっぷりとこめられている。「この間、脚本の仁志原さん(仁志原了:『机のなかみ』『ばしゃ馬さん…』でも吉田監督とタッグを組んできた脚本家)と飲んでる時に『今まで変化球ばかり作ってきたけど今回はストレートな映画を作りましたね』って言ったら『ストレートと思ってるのは我々だけで、世の中的にはだいぶおかしなことになってると思いますよ』って言われました」と笑う吉田監督は今後もブレることなく活動していきそうだ。「今後も優先順位を大小で決めるのではなくて、自分のやりたいものをバランスをとりながらやれるといいな、と思ってますし、このままいくと俺が“いい人”みたいに見られるから、みんなをガッカリさせたいです(笑)。でも基本的には“人と人の距離”を描いてきたので、これからもそこはちゃんとやっていきたいと思っています」。

『麦子さんと』
12月21日(土)より、ロードショー