『ゼロ・グラビティ』 (c) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

宇宙飛行士の方々を招いて試写を行なったとき、彼らは“これまでの映画の中で、本物の宇宙体験にもっとも近い”と褒めてくれた」と、アルフォンソ・キュアロン監督は語る。何が宇宙空間のリアルなのかを知る観客は皆無に等しく、それぞれの知識に基づいて想像するしかないが、宇宙飛行士のお墨付きを得たその映画『ゼロ・グラビティ』は少なくともリアルな宇宙映画に近いと言ってよいだろう。そこで描かれるのは無重力空間でのサバイバルだ。

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舞台は地球上空60万メートル。気圧も酸素もない宇宙空間で作業していた飛行士たちが、猛スピードで軌道を突き進む衛星の破片の衝突によりシャトルを破壊され、帰還の手段を失う。NASAとの通信も断たれ、宇宙服内の酸素も尽きかけている。そんな恐ろしい状況下で、サバイバルが繰り広げられるのである。

破片の襲来や酸素の欠乏は状況としての恐怖だが、もっと恐ろしいのは人間の内面の恐怖。宇宙から眺める地球はとても美しく、そこには70億人が存在しているが、助けに来る人間は誰もいない。まさに完璧な“孤独”だ。必死に行動しても報われず、ネガティブな考えに冒され、いっそ死んだ方が楽かもしれないと思えてくる。本作でもっともスリリングなのは、この絶対的な孤独に人間の心が浸食されるさまである。

そんな恐怖に説得力をあたえているのが人間ドラマで、飛行士がかつて子どもを亡くしているという設定が後になって効いてくる。過去に味わった絶望の上に積み重なる現在の絶望。それに押し潰されるか、はね返すか? そんな心情の動きをビビッドにとらえているからこそ、本作は熱い物語となりえたのだ。

そこにリアルな宇宙体験の描写が加われば、まさに鬼に金棒。一度クルクルと回り出すと簡単には止まらない身体の回転をはじめ、無重力下の物理の描写は、めまいがするほどの迫力。カメラは飛行士の姿にピッタリと寄り添い、時には飛行士の目線にもなる。それは観客を広大な宇宙の中へと引きずり込むような、強烈な臨場感を抱かせるだろう。身も心も飛行士と一体となるこのサバイバルは3Dで、そしてできればアイマックスで体感して欲しい。

『ゼロ・グラビティ』
公開中

文:相馬学