『グランツーリスモ』

『グランツーリスモ』(9月15日公開)

 ドライビングゲーム「グランツーリスモ」に熱中する青年ヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)は、同ゲームのトッププレーヤーたちを本物のプロレーサーとして育成するため、競い合わせて選抜するプログラム「GTアカデミー」の存在を知り、その門をたたく。

 そこには、プレーヤーの才能と可能性を信じてアカデミーを発足したダニー(オーランド・ブルーム)と、ゲーマーが台頭できるような甘い世界ではないと考えながらも、指導を引き受けた元レーサーのジャック(デビッド・ハーバー)、そして世界中から集められたトッププレーヤーたちがいた。想像を絶するトレーニングや数々のアクシデントを乗り越えて勝ち抜いたヤンは、ついにデビュー戦を迎えるが…。

 世界的な人気を誇る日本発のVRゲーム「グランツーリスモ」から派生した実話をハリウッドで映画化したレーシングアクション。監督は南アフリカ出身で、『第9地区』(09)を世界的に大ヒットさせたニール・ブロムカンプ。日産がこうしたプロジェクトを実行していたことは知らなかった。

 この映画は、ゲーマーが本物のカーレーサーになる意外性や、ヤンが逆境をもろともせずにチャンスに懸ける姿、ヤンとジャックの師弟愛、手に汗握るレースシーンなどから、アメリカでは「レースカーが出てくる『ロッキー』」、「最高のアンダードッグ(負け犬)・スポーツストーリー」と評されている。

 なるほど、ヤンとジャックの関係は、『ロッキー』の主人公でボクサーのロッキー(シルベスター・スタローン)とトレーナーのミッキー(バージェス・メレディス)の関係をほうふつとさせるところがある。

 ジャック役のハーバーは「ストーリーの中にビデオゲームを含みながら、非凡な才能を持った青年と、その青年の才能を信じるようになる指導者を描いた映画」と語っている。

 久しぶりにスピード感にあふれるストレートなスポーツ映画を見た思いがして、爽快な気分になった。

『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(9月15日公開)

 流浪の日々を送る名探偵エルキュール・ポアロは、死者の声を代弁するという霊媒師(ミシェル・ヨー)のトリックを見破るために、子どもの亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。ところが、霊媒師が不可解な方法で殺害される事件が発生。ポアロは真相究明に挑むが…。

 ケネス・ブラナーが、アガサ・クリスティの原作を映画化し、監督・製作・主演を務めた『オリエント急行殺人事件』(17)『ナイル殺人事件』(22)に続くシリーズ第3弾。前2作は有名な原作で、再映画化だったこともあり、新鮮味に欠けた。

 ところが、今回の原作は比較的地味な『ハロウィーン・パーティ』であり、初の映画化だったため、その分自由度が増し、舞台をベネチアに移し、オカルト味を加え、ポアロの心の屈折や神への不信を描くなど、ブラナー流の新解釈を施している。

それ故、クリスティの原作のファンにとっては、賛否両論があると思われるが、これまで見たことがないポアロという点では目新しさがある。

 また、ジュディ・ガーランド主演の『若草の頃』(44)が隠し味になっているところにもブラナーの趣味が出ている。

(田中雄二)