夏帆

すさまじい、目覚ましい、めまぐるしい――いずれの言葉も最近の彼女の活躍ぶりを表すのにふさわしい。作品ごとにイメージを壊し新たな顔を見せ続ける夏帆。映画『箱入り息子の恋』では盲目のヒロインを演じたが、ブルーレイ&DVD化発売を機に、改めて本作での挑戦、そして近年の飛躍について話を聞いた。

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内気な主人公の青年と、見合いで知り合った盲目の奈穂子の恋を描いた本作。「まず、目が見えないヒロインというのは、すごく難しい挑戦でした」と振り返る。もうひとつ、大きかったのが主演ドラマ「ヒトリシズカ」と掛け持ちで撮影に臨んだこと。「初めての経験ではないんですが、『ヒトリシズカ』は主演で、こっちはヒロイン。作風も役柄も全く違う。いま振り返るとすごく良い経験になりました。悪い方向に行くのでは? と不安もありましたが、結果的にバランスが取れてよかったなと」。

難しい挑戦になると分かっていながらも両作品への出演を決めた理由は「どっちかを選べなかったし、どっちも他の人がやるのはイヤだったから」と、おっとりしたイメージとは裏腹に負けん気をのぞかせる。いや、そもそも“ふわりとした明るいヒロイン”という『天然コケッコー』(07)など10代の頃の作品で築かれたイメージが、既に塗り替えられつつある。「ヒトリシズカ」に、初挑戦となった舞台「祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~」、同じく昨年公開の映画『任侠ヘルパー』、新たな境地を切り拓いたドラマ「みんな!エスパーだよ!」に本作『箱入り息子の恋』と、文字通り作品ごとに全く異なる役柄を演じているのだ。

こうした変化について夏帆自身は「昨年くらいまでは、結果的にそうなったという感じで、意図的に選んでたわけではないんです」と明かす。「20歳を過ぎたくらいからかな? いままでと違うタイプの役が来るようになって、どの現場でも『いままでの夏帆にないものを出してほしい』と言われてました。きっと、そういう時期だったんですね」。

そんな中でも『箱入り息子の恋』の撮影の頃が「一番、自分の中で変化を感じた時期だった」とも。改めてこの1年について尋ねると「もうそんな時期? 早い(笑)! まだ何もやってない気がする(苦笑)」と慌てる。挙句、漏らした答えは「女優に向いてないと改めて感じた」とネガティブ思考も甚だしい! だが、このマイナス思考こそが彼女の力の源。「不安じゃないと心配なんです。でも、向いてないと思いつつも仕事が好きだし、『辞めようか?』って考えをしなくなりましたからね(笑)」と“成長”を口にする。

年明けには再び舞台に出演する。来年はどんな表情を見せてくれるのか? まずは飛躍の“カギ”と言える本作のヒロインをじっくり堪能してほしい。

『箱入り息子の恋』
ブルーレイ&DVD 発売中

取材・文・写真:黒豆直樹