【その3】幻想的ヒーリングコミックの名作『AQUA』『ARIA』(作:天野こずえ)

舞台は人が住めるよう地球化(テラフォーミング)された火星。水の都を再現したネオ・ヴェネツィアにやってきた地球生まれの少女・灯里が、ゴンドラに乗り観光客を案内する職業(ウンディーネ)を目指すところから物語はスタートする。掲載誌が変わってタイトルも『AQUA(全2巻)』→『ARIA(全11巻)』へと変更されたが、キャラクターや設定の同じ一つの作品である。作中の火星は水の惑星と呼ばれるだけあって非常に美しく描かれている。ここで灯里は個性的な上司やライバル、ネオ・ヴェネツィアの住人たちに接しながら、一流のウンディーネとして成長を遂げていく。

見どころは何と言っても天野氏が描くイラストの数々。時にカラーで時にモノクロで人と風景を幻想的に描き、それが修行や会話シーンにも違和感なく溶け込んでいる。読者はSFチックでどこか懐かしい風景を、漫画を読みながら堪能することができるのだ。

また、主人公の灯里は先に紹介した『よつばと!』と同じくどんな些細なことでも大いに楽しめる“幸せの天才”。普通に生きていれば見逃しがちな風景や出会いでもすぐさま興味の対象に変え、まわりの人々をも笑顔の渦に巻き込んでいく。同作者は日本が舞台のダイビング漫画『あまんちゅ!』を現在掲載しているが、すでに完結している点を含め、ヒーリング効果としてはこちらの『ARIA』がイチオシ。原作コミックで興味をもったら、画集、アニメ版へと視聴範囲を広げていくのも良いだろう。

以上、幸せいっぱいの3作品(4タイトル)を紹介してみた。未読の人からしたら「悪人が出てこない世界なんてフィクションでもおかしいだろ!」と思われるかもしれないが、少なくとも今回の各タイトルにその批判は当てはまらない。

魅力的なキャラクターや物語を揃え、世界観をしっかり作り込めば“幸せな人だけの世界”を作り出すことができる……まさに漫画という表現方法の底力を感じさせてくれる、そんなやさしさあふれる逸品たちなのである。

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。

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