提供:サントリーホール 撮影:池上直哉 提供:サントリーホール 撮影:池上直哉

日本フィルハーモニー交響楽団がミュージック・パートナーの西本智実と新プロジェクトを開始した。サントリーホールの内壁一面にプロジェクションマッピングを駆使した映像を投影し、オーケストラの生演奏でチャイコフスキーの三大バレエ音楽を披露するという、新しい空間芸術への挑戦だ。

「西本智実×日本フィルハーモニー交響楽団 ミュージックパートナー・シリーズ」の公演情報

国際的な活躍を続ける一方で、視覚と聴覚の調和や相乗効果に注目してきた指揮者の西本智実。チャイコフスキーの三大バレエを題材に、近年注目を集めるプロジェクションマッピングを用いた映像付きコンサートを発案し、アートディレクターには、バッハ・コレギウム・ジャパンのアートディレクションや、東京・春・音楽祭ワーグナーシリーズの映像演出などで頭角を現す田村吾郎を迎えた。

11月24日のシリーズ第1回公演では、西本智実指揮、日本フィルが奏でる『くるみ割り人形』の音楽にあわせ、サントリーホールの壁一面に映像が投影され、幻想的な世界を生み出した。演奏のテンポや強弱、音色の変化とリンクして、刻一刻と映像が変化していく様は、これまでに見たことのない音楽と映像のコラボレーション、空間芸術だろう。

「『くるみ割り人形』は、チャイコフスキーの最晩年の作品。ロシア革命の足音が聞こえていた時代のことです。夢物語ではなく、作品の裏側には色々な意図が隠されています。今回はあえてバレエを使わずに作品の本質に肉薄したいと考え、プロジェクションマッピングを用いました。キャラクター設定や作曲家の隠れた意図などをアートディレクターの田村さんに伝え、映像化してもらいました」と西本智実は語る。

映像付きのコンサートといえば、一般的に多いのが、演奏者の後ろに映像を出す手法だが、今回はサントリーホールの壁面全体を用いたことが大きな特徴だ。アートディレクターの田村吾郎は「サントリーホールでやると聞いて、最初は困りました。客席全体が舞台を取り囲む構造なので、(観客の)視線の向こう側に映像を出すにはどうしたらいいのか――結果的には壁に出す以外ないという結論になりました。映像の作り方、信号の送り方、照射の仕方など、技術的には大変でしたが、新しい試みだからこそ、新規のお客さんに興味を持ってもらえたり、クラシック音楽や映像が有機的に絡みながら活発になれば一番いいですね」と今後に期待を寄せる。

世界の音楽シーンではメジャーな手法になりつつあるプロジェクションマッピング。西本智実と日本フィルの新たな試みが、国内のクラシック音楽シーンに新風を巻き起こすか。今後の公演は、1月18日(土)の「白鳥の湖」、4月12日(土)の「眠れる森の美女」。会場は共にサントリーホール。チケットは発売中。