売り場の電子プライスカードの導入が進む

阪神タイガースのプロ野球選手がバッターボックスに入ると、ヘルメットの横に「Joshin」の文字が記されている。同球団のスポンサー企業でもあり、地元関西の顧客から熱い支持を得ている家電量販店の上新電機が、店舗の売り場にITを導入する最先端のリテールテック企業であることは、あまり知られていない。

白物家電売り場にも導入

上新電機の売り場を歩けば、一目でその変化に気づく。スマートフォンケースなどの小物商品がぶら下がる棚に、液晶モニタに映し出された電子プライスカード(電子棚札)が整然と並んでいるのだ。スマホアクセサリやPC周辺機器だけでなく、ドライヤーなどの白物家電コーナーにも、同じように電子棚札が導入されている。

ジョーシン西宮今津店の三島徹店長は「自社では2年前から取り組み始めて、当店でも1年前に導入した」と語る。今期(2019年3月期)中には、上新電機のほぼ全店で導入する計画だ。家電量販店のなかでは最先端の取り組みで、リテールテクノロジーの先頭を走るコンビニエンスストアでさえ、電子棚札を見かけることは少ない。

電子棚札は無線でつながっており、本部が最新の価格情報を更新すると、連動して店頭の価格表示が切り替わるシステム。価格の変化が激しい商品で、俊敏に価格対応できるうえ、販売員の作業負担が軽減されるメリットがある。また、競合店の兼ね合いから店舗側で変更することも可能だ。

ただし、エアコンや洗濯機、テレビやPCなどは従来通り、大きな赤文字のプライスカードを採用する。安さを強調する従来型の手法をまるっきり捨てるわけではない。電子棚札と従来のプライスカードの採用は、こうしたメリハリがポイントになりそうだ。

顧客からの信頼と作業負担の軽減

三島店長は電子棚札のメリットを2点あげる。まずは、価格に対して顧客から信頼を得られる点だ。手作業でプライスカードを張ると、どうしても最新の価格に反映されないケースがあった。だが、自動で更新される電子プライスカードは、反映漏れの心配がなく、顧客に安心感を与えられるのだ。

もう1点は、店舗オペレーションで重要になる販売員の作業負担の軽減だ。「店員1人あたり30分かかっていた作業が、まるまる減って、その時間を接客にあてることができる」と三島店長は語る。

上新電機では接客力を磨き、根強いファン層を獲得することに力を入れている。1日あたりの接客人数を増やして販売効率を上げるのではなく、1人の顧客が満足して購入してもらうために接客に時間を割く。一見すると非効率だが、長い目でみれば固定客化がすすみ、リピート購入につながる可能性が高まるとみる。買い替え需要が軸である家電市場で、長期にわたり安定した売り上げの確保につなげる、「急がば回れ」の戦略というわけだ。

上新電機は今後もテクノロジーの導入で売り場作業の簡素化を進める一方で、丁寧な接客力を高めることで、ECとは異なるリアル店舗ならではの付加価値を追求していく。(BCN・細田 立圭志)

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