青木琴美氏、小泉徳宏監督

『カノジョは嘘を愛しすぎてる』で物語の中心にあるのは主人公とヒロインの恋だが、同時に登場人物たちは理想と現実のはざまで揺れ動き、苦悩や嫉妬を抱える。そこには原作者の漫画家・青木琴美氏、そして実写化を担った小泉徳宏監督のモノ作りに携わる人間としての共感や強い思いが込められていた。

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漫画と音楽で分野は異なれど「作品」を生み出す人間を主人公にしたことで、青木氏にとってこの漫画は「自分自身を描いていると言っても過言ではない作品」になった。実際、青木氏自身が仕事をする中で直面した様々な事柄が物語に反映されているが、創作の中で強く意識しているのが「立場が違えば物事の見方、何が正義で何が悪かも変わってくる」ということ。「だから、この作品では分かりやすい漫画的な“悪人”は描かないと決めてます。例えばプロデューサーの高樹(反町隆史)は悪役っぽく描かれていますが、彼には彼の正義がある。それは秋(佐藤健)や他のメンバーもそう。自分なりの正義があり、その中でどう音楽をやって何を届けるか? という葛藤に落とし込んでいっています」。

そうした個々の立場での葛藤や苦悩が表れているのが秋と心也(窪田正孝)の関係性。自分にはない才能に嫉妬し、心酔するさまはリアル! 小泉監督もこの部分に強く惹きつけられた。「心也が秋よりたった1歳だけど年下という設定とかいちいちリアルで(笑)。先生のお話を伺いながら、僕も仕事でいろいろあった時期があり、そこから一つ階段を上がったような感触を得たことがあったので、思わずうなずいてました。映画の軸はあくまで秋と理子のふたりですが、いかに心也との関係性をニュアンスとして無理なく入れるか? 『時々、嫌になるくらい好きなんだ』というひと言に単なるライバルというだけではない心也の気持ちを込めたりしました」。

取材に同席した青木氏の担当編集者によると「秋は青木さん自身ですね。他のキャラを描くときは俯瞰して冷静なのに、秋を描く時は冷静じゃない」とのこと。青木氏は苦笑を浮かべつつ語る。「漫画家同士でもライバルっています。私のライバルの方は天才で、私は残念ながらそうじゃなかったんです。だから心也の気持ちがすごくよく分かります。一方で、世間で多く読んでもらってるのは私の作品だったりもして…。どのキャラクターも自分なんですが、特にというならやっぱり秋と心也なのかな?」。

連載中の映画化という初めての経験の中で、青木氏は原作を執筆しながら映像の“引力”に引き寄せられることも…。「秋を描いてたら、カメラのフラッシュが焚かれるような感覚になって秋の顔が一瞬、佐藤さんに見えたことがありました。こないだ理子でも同じことが起きて(笑)。あとコミックス13巻(最新巻)の表紙はキャストのみなさんが並んでる写真を漫画にしたんですが、三浦(翔平)さんの瞬にどうしても引きずられて、何度描き直しても担当さんが『これ瞬じゃなくて三浦くんじゃない?』って(笑)。不思議な体験でした」。惹かれ合うように並立する原作漫画と映画。それぞれの魅力を感じてほしい。

『カノジョは嘘を愛しすぎてる』
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