熊谷和徳 熊谷和徳

タップダンサー、熊谷和徳が、2012年秋からの1年にわたるNY研修を終えて、凱旋公演『DANCE TO THE ONE ~A Tap Dancer’s Journey~』を行う。

「DANCE TO THE ONE」~A Tap Dancer's Journey~ 熊谷和徳 凱旋公演2014 チケット情報

日本のタップダンサーとして、文化庁の新進芸術家海外研修制度での留学。きっかけのひとつは震災だった。実家がある仙台も被災。復興のためのチャリティーイベントなどに取り組むうち、「支援の比重がアーティストとしての活動より自分の中で大きくなってしまった」という熊谷。「被災地である故郷に対して、良いエネルギーを長期的な観点で与えていくためには、アーティストである自分を見つめ直すことが、結局は故郷のためにもなると思った」と語る。

NYは熊谷にとって、19歳で単身渡った思い出の地だ。ここで9.11も経験している。敢えてその場所からの再出発を目指し、家族を連れて赴いた彼を迎えたのは、巨大ハリケーンのNY直撃。町の機能がストップし、一家のNY生活は波乱のスタートを切ることになった。「大変でしたけれども、最初の住まいは偶然にも、10代の時に暮らした場所の近くで。そこに、家族を連れて戻って来たことが感慨深かったですね」。

昔と状況が変わったのは、熊谷だけではなかった。「NYのタップシーン自体、大きく変化していました。かつて自分がいた頃は、タップ界のレジェンド達が存命で、タップの文化や魂を直に教えてもらう機会がたくさんありましたが、その文化の流れや価値観が、世代交代によってかなり変わったと感じます。でも、タップというアートは、いつの時代もシンプルに“思い”を伝えるアート。表現の可能性は無限にあると思っているので、現地で所属したアメリカン・タップ・ダンス・ファンデーションでは、パフォーマー兼講師として、僕が学んだことを、レッスンやパフォーマンスを通してできるだけ多くの人に理解してもらうよう努めました」。

子供や若者への指導を通し、自身もタップの本質や使命を再認識できたという熊谷。凱旋公演はいわば、その成果となる。「タイトルにある『ONE』とは、“自分にとって一番大切なもののために踊る”という意味であり、皆で一つになるという意味合いもある。ただし、その一番大切な『一つ』は、観る人によって様々。それぞれに何か大切なことを感じ取ってくれればいいと思うんです。今回、色々なバックグラウンドやジャンルを持つアーティストが参加してくれるのですが、共通するのは、音楽を“魂”という共通言語で表現する人達だということ。妻のカヒミ・カリィも映像制作で参加します。副題の通り、NYへの1年間の旅を通して僕が感じたことを表現するショーになると思います。難しいメッセージではなく、シンプルに気持ちが高揚するような、ポジティブなエネルギーに満ちた公演にしたいですね」。

公演は1月17日(金)から19日(日)まで東京・オーチャードホールにて。

取材・文:高橋彩子