内野聖陽(左)と北香那 (C)エンタメOVO

 江戸文化の裏の華である「春画」に魅せられた型破りな師弟コンビが織りなす春画愛を描いたコメディー『春画先生』が10月13日から全国公開される。本作で、春画の研究者で「春画先生」と呼ばれる芳賀一郎を演じた内野聖陽と、芳賀から春画鑑賞を学ぶ春野弓子を演じた北香那に話を聞いた。

-最初にシナリオを読んだ時にどう思ったかということと、実際に演じてみて感じたことがあればお話しください。

内野 春画の研究者について、どんなものかのぞいてみたいというちょっとエッチな気持ちと、男女が出会うというお話自体にすごくロマンチックなものも感じました。ただ、最終的にはちょっと意表を突く作品だったので、戸惑いは隠せなかったというのが正直なところでした。でも、ほほ笑ましいおとぎ話のような感覚を持って、塩田(明彦)監督色に染め上げられてみたいという気持ちが強くなっていきました。

 芳賀一郎は自分の思いやくわだてを、全く表に出さずにいるキャラクターなので、その分、すごく心の声が多い人だなというふうに感じました。実際に演じてみると、監督から「もう少し、そぎ落とした感じでせりふを言ってほしい」とか、「もっと、ぶっきら棒に棒読みっぽく語ってほしい」とか、いろんな指示を受けました。

 それで、最初はちょっと難しくて、何度もテイクを重ねたところはあったんですけど、最終的には、なるほどこういう人なのね、というのは分かった感じはしました。本音の心の声が吹き出しのように現れたら、相当面白いキャラクターだなっていう気はしました。普通の男性が好みの女性に出会ったときに思う感覚と全く一緒なんだけど、それを押し殺しながら冒険をしている感じ。僕はこの映画は芳賀一郎先生の冒険譚だなというふうに捉えて演じていました。

北 私はオーディションを受けて弓子役を頂いたのですが、脚本を読んだときに絶対にこの役を演じたいと、とても意気込んでいました。何も楽しいことなどないと思っていた24歳の女性の人生が、春画に出合い、先生に出会い、周りの人たちに出会い、ガラッと変わるというようなお話だったので、撮影に入る前からワクワク感がありましたし、すごく楽しみでした。でも、初めての挑戦だったので、私で大丈夫だろうか、私にできるのかなとちょっと不安もありました。

 それで撮影の初日に(芳賀家のお手伝いさん役の)白川和子さんとお会いしたときに、胸の内を少し話したんです。そうしたら「春画先生で演じているときの北香那は、北香那ではなく完全に弓子になる。その瞬間は北香那を捨て去る。弓子としてここにたどり着いて、自然な流れでこうなった。そう思ったら何も怖くないから」と言ってくださって。その力強いお言葉を頂いてふっと気持ちが楽になって、エンジンがかかりました。

内野 おお、すごい。白川さんにしか言えない言葉かもしれない。

-今回は、難役だったと思いますが、互いの演技を見て、どんな印象を持ちましたか。

北 始めにリハーサルでお会いして、段階を踏む中で、内野さんの集中力や、監督のリクエストに応えたときの再現度、実現する力みたいなものを、目の当たりにした瞬間がありました。それを見て、どんどん先に行く内野さんに追いつかなければ、という焦りと憧れを感じました。でも、次は内野さんはどうくるのだろうという必死さもあり、刺激的な日々の撮影がすごく幸せでしたし、勉強にもなりました。

内野 映画を見てくだされば分かると思いますけど、一点の曇りもうそもなく、直情的な女性を気持ちよく演じる人だなというのをすごく感じたので、演じ手として、相手役として、とてもインスピレーションを頂いたというか、素晴らしい女優さんに、ただ共鳴させていただきました。

-この映画の主役は、ある意味春画だと思いますが、春画の魅力について、どんなふうに感じましたか。

内野 春画の歴史をかじったのは今回が初めてだったので、春画の見方が変わりました。男女の結合をあられもなく見せてしまうということで、表立って見てはいけないものとされていますが、春画の歴史をひもとくと、生命の謳歌(おうか)を表現したものなんだということを感じました。

 1人で淫靡(いんび)に、ムフムフしながら見るものではなくて、笑いながら見るもの。例えば、勉強が進まないときに、ふっと見て、心を緩やかにしてまた勉強に戻るとか、そういう使い方もできてしまうぐらい、その効用はすごいものだというふうに見直しました。それぐらい人をおおらかにさせる世界。一郎先生がせりふの中で言っているように、春画には人生の謳歌、生きとし生けるものへの謳歌みたいなところがあることがすごくふに落ちたし。決して目を背けるようなものではないと思いました。

 むしろ、縁起物としてお嫁に行くときに持たせるとか、戦争に行く人の懐に持たせるとか。戦地で弱気になったり、傷ついたりして弱気になったときに、春画を見て、頑張るぞってなれる。そういう前向きなもののシンボルみたいなところがあるというのが意外な発見でした。技術面から見ても、彫り師の技巧、版画の印刷など、ものすごい粋を集めた、日本の裏芸術だったということを、改めて勉強させてもらって、見方が変わりました。

北 私も内野さんがおっしゃる通り、わいせつとか、そういうマイナスのイメージでは全くなくて、芸術作品として本当に素晴らしいものですし、もっと気軽に皆さんが見て楽しんでくれたらいいのかなと思います。春画はぱっと目を引くので、お店の壁紙とかにしてもいいですよね。

内野 年末の「第九」みたいに、年末に一度は春画を見なくちゃいけないとかね。そうするとおおらかになって、平和な日本になるとか(笑)。

-弓子は、抵抗なく、春画や一郎先生に魅せられていきますが、あれは一目ぼれなのでしょうか。

北 私は一目ぼれではないと思います。まず春画の世界に入り込んでいって、そこで教授として活躍する先生に魅かれていくというのは、そうなんですけど、もともと春画に魅かれる素質と、先生が求めている素質を持っていた弓子が、そこに、磁石のように、運命のように吸い寄せられて、引きつけられたのではないかなと。必然だったのではないかと思います。

-最後に映画の見どころと、観客の皆さんに向けて一言ずつお願いします。

内野 春画ということで、僕と同じように興味を持たれる方も多いと思うし、僕と同じように春画の見方が変わるという経験もできるのではないかと思います。何より、男と女の出会いという意味でも、男性にも女性にも、共感を得られるストーリーだと思うし、男性サイドからみれば、男の本音が隠されたお話は、見ていて「むふふ」と笑ってしまうところがたくさんあると思いますので、映画館の席に座って、この世界をのぞいてみてほしいなと思います。

北 新型の男女関係とコメディーとエロスの化学反応が、とても面白い映画になっていると思いますので、ぜひ皆さんにも見ていただきたいです。弓子と一緒に覚醒していただけたらなと思いますし、自分のいろんな部分に覚醒していただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/田中雄二)