篤姫役の北川景子

 薩摩藩主・島津斉彬(渡辺謙)の養女として、主人公・西郷吉之助(鈴木亮平)を伴って江戸にやってきた篤姫。紆余(うよ)曲折を経ながらも、ついに将軍・徳川家定(又吉直樹)の正室(=御台所)となった。やがて大奥を取り仕切り、徳川家を支える存在として、激動の幕末を生き抜いていくことになる。演じるのは、これが大河ドラマ初出演となった北川景子。初めての現場で感じたこと、共演者の印象などを語ってくれた。

-大河ドラマ初出演の感想は?

 大河ドラマには、ずっと出演したいと思っていました。今回ようやくそれがかなってうれしかった反面、目の肥えた視聴者の方に満足していただけるパフォーマンスをしたいという思いもあって、放送が始まる前は緊張と不安だらけでした。篤姫が初登場した第5回の放送翌日、プロデューサーから「評判良かったよ」と聞いて、ようやく「これで1年頑張っていけそうだ」と思えたぐらいです。

-初めての大河ドラマの現場で感じたことは?

 最初は方言も大変で、せりふを覚えることに追われていたので、お芝居に関してはリハーサルで監督からいろいろと指示があるものだと思っていたら、何もなくて驚きました。そのときに知ったのは、リハーサルは自分が作り上げたものを披露する場であるということ。だから、所作やせりふの言い回しなどは基本中の基本で、当たり前にできる人しか来ていません。その上で、自分がどう役作りしてきたかを監督に披露して見せる。本当に自分の責任なんだなと。でもそれは、役者を信頼して役作りを任せてくださっているんだと思うと同時に、責任も感じました。

-篤姫は過去、大河ドラマの主人公にもなった人物ですが、演じるお気持ちはいかがでしょうか。

 10年前、宮崎あおいさんが演じられた篤姫は、皆さんの記憶の中にまだまだ強く残っているに違いありません。ただこの作品は、あくまでも西郷隆盛(吉之助)が中心。その中で篤姫は脇を固める役ということで、描かれ方も異なります。今回は林(真理子)先生と中園(ミホ)先生が作ってくださった篤姫を、自分らしく演じられたらと思っています。

-篤姫という人物をどのように捉えていますか。

 クランクインする前、鹿児島に行き、篤姫ゆかりの地を回ってきました。そのときに感じたのは、芯があって精神的に強い女性だということ。結婚して2年で家定が亡くなるわけですが、その頃、篤姫はまだ20代。薩摩に戻ることもできたはずです。にもかかわらず、「自分の家は徳川だ」と言って大奥に一生を捧げた。なかなかできることではありません。

-篤姫は、薩摩の姫から御台所になるまで、ドラマでは短期間で成長しますが、そのあたりはどう感じていますか。

 於一から篤姫、御台所、天璋院へと変わっていくまで、本当にあっという間です。1人の人の一生を演じるのは初めてなので、かつらやヘアメーク、着物の着付けといった細かいところで少しずつ年齢の変化を表現していくのは面白いです。台本に「1年後」と書いてある部分も、その1年の間に篤姫に何があったか想像して膨らませ、深めていく作業はやりがいがあります。その一方で、お家のために嫁ぐ、お世継ぎを産まなくてはいけないといった部分については、想像するしかないので、どこまで気持ちを篤姫に近づけられるかが課題です。放送を見ると、もっとこうすればよかったと思うこともありますが、そのときの自分の力を100パーセント出し切ったという意味では、全力で生きた篤姫と通じるものも感じています。

-主人公の西郷吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象は?

 鈴木さんはとにかくいつも全力です。初めて長時間ご一緒したのが、第5回の御前相撲のシーンだったのですが、私や(渡辺)謙さんのリアクションを撮っていて、ほとんど映らないようなときでも、土俵から落ちることもいとわずに全力で相撲を取ってくださって。これから1年続く大河の主役にけがをさせるわけにはいかないと思って「無理しないでください」と申し上げたところ、「やっぱり気持ちだから」と。ここまでやられるのかと、一緒にやるたびに尊敬してしまいます。

-家定役の又吉直樹さんと共演した感想は?

 又吉さんが家定と聞いたときから、いい夫婦になるという確信がありました。家定はぼんやりした人と言われていますが、実は心が優しかったり、絵の才能があったりと、いろいろと秀でた部分があった人物として描かれています。又吉さん自身もお笑いだけでなくファッションや絵にも詳しくて、小説も書かれるというアカデミックなイメージが強い方。そういうイメージが家定とリンクして、とてもお似合いです。物語の中には重苦しい部分もありますが、家定と篤姫は一緒に花を見たり、柿の絵を描いている家定を篤姫がにこやかに見守ったり、ほのぼのしたシーンになっています。視聴者の方にとって癒やしになるといいですね。

-斉彬役の渡辺謙さんとは2度目の共演だそうですね。

 前回は民放の単発ドラマで親子役だったのですが、謙さんが冗談を言って現場を和ませてくださったのに、私の方が緊張してしまい、話し掛けることができませんでした。今回は一緒に過ごす時間も長く、鹿児島ロケでもご一緒させていただいたので、私の方から話し掛けていろいろなお話をすることができました。お芝居についても、私が不安を感じているといろいろとアドバイスをくださるのですが、やっぱりその通りにやるとうまくいくんですよね。こうしたらもっと伸びると、私の可能性を信じてアドバイスをくださったので、ますます尊敬しました。役の上でも、篤姫と斉彬の関係には、私自身が謙さんを尊敬している気持ちが表れていると思います。

-お二人の共演では、第7回で一緒にカステラを食べる場面も良かったです。

 あの場面は、台本に「食べる」と書いてなかったんです。カットがかからないままやっていたら、謙さんがアドリブで「食べろ、食べろ」と薦めてきて…。私が所作などを気にして迷っていたら、謙さんが手でつかんで食べて見せてくれたので、「じゃあ、いいのかな…?」と戸惑いながら食べました(笑)。コミカルなシーンになっていたし、謙さんとのアドリブで生まれたものが使われたので、うれしかったです。

(取材・文/井上健一)