ホ・ジノ監督

18世紀後半にフランスで発表された小説を原作にこれまで幾度となく映像化されてきた『危険な関係』が1930年代の上海に舞台を移し、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、チャン・ツィイーを迎え再映画化された。メガホンを執るのは『八月のクリスマス』、『四月の雪』などを手がけてきた韓国の名匠ホ・ジノ監督。公開を前に作品に込めた思いを語ってくれた。

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“東洋の魔都”として繁栄を見せる上海に暮らす裕福なプレイボーイのイーファンと女性実業家のジユの間で取り交わされた危険な賭け。それは彼が貞淑な未亡人のフェンユーを口説き落とせるか否かというものだったが、恋の駆け引きがやがて本物の愛へと変わり憎悪さえ生み出して…。

中国の製作会社から「1930年代の上海を舞台に」という条件付きでオファーを受けたというホ・ジノ。当初は「何度も映像化されている作品であり、ためらいがあった」と言うが、原作小説の面白さに引き込まれ「過去の作品とは違うアプローチができるのでは?」と引き受けた。「何より物語の魅力は登場人物たちの個性的なキャラクターとその関係性。当初、愛をゲームや快楽として扱っているが、徐々にハマりこんでいくさまを彼らの個性を生かしつつ描いていくことが重要でした。原作はフランス革命前のパリの華やかで堕落した貴族たちを描いてますが、当時の上海は戦争前の最も華やかで退廃的な時期であり、上海を舞台に特に愛に焦点を当てて描くことで面白いものになると思いました。これまでの作品とエンディングも変えています」。

スクリーンで際立っているのがドンゴンのプレイボーイぶり。彼が体現したイーファンを監督は“オム・ファタール”――ファム・ファタール(運命の女)の男性版――と表現。「彼自身、これまで強くていい男を演じる機会が多かったので、違う面を表現したいと思っていたようです」と明かす。彼の能力の高さを体感したというのがチャン・ツィイー演じるフェンユーを翻弄するシーン。「涙を潤ませて彼女に思いを告白し、背を向けて去っていくのですが、最初に撮ってみたら良いシーンではあるけれど、何かが足りなかった。そこでもう一度やってもらったんです。すると彼が去り際に彼女には見えない角度でニヤリと笑みを浮かべたんです。素晴らしいものを持っている俳優だと改めて実感しました」。

韓国映画界における「ラブストーリーの第一人者」と称されるホ・ジノ監督。「決してラブストーリーを多く観る方ではないのに、不思議と撮るとラブストーリーになる。人間の感情や喜怒哀楽が最も表現されるのが恋愛においてだからかな?」と微笑む。「恋愛映画を撮る秘訣? 何でしょう、難しいな(笑)。現場で俳優とたくさん話をするようには心がけています。そのおかげで自然の表情を引き出せるのかもしれません」。

国籍や言葉を超えて感情を奏でる豪華俳優陣の表情にぜひ注目してほしい。

『危険な関係』
公開中

取材・文・写真:黒豆直樹