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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(10月20日公開)

 舞台は1920年代。第1次世界大戦で負傷したアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)は、おじのウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってオクラホマ州オーセージを訪れる。

 その町では、油田を掘り当てた先住民のオーセージ族が、石油鉱業権を保持し、高い利益を得ていたが、裏では白人たちが彼らの莫大な富を狙い、ヘイルが町を支配し、オーセージ族の人々が次々と謎の死を遂げる事件が起きていた。アーネストはオーセージ族のモリー(リリー・グラッドストーン)と結婚するが、次第におじの悪事に加担するようになる。

 数年後、姉を殺されたモリーの嘆願を受けて、元テキサス・レンジャーの特別捜査官トム・ホワイト(ジェシー・プレモンス)が大規模な捜査を開始するが、石油の利権や人種問題が複雑に絡み合い捜査は難航する。

 ジャーナリストのデビッド・グランがアメリカ先住民連続殺人事件について描いたベストセラーノンフィクション『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』を原作とし、もともとはApple TV+での配信用映画として製作された206分の長尺。

 監督のマーティン・スコセッシにとっては、前作のNetflixオリジナル映画『アイリッシュマン』(19)に続く配信用映画となったが、「ずっと西部劇が撮りたかった」という夢がかなったという。長尺ということで、飽きずに見られるかと危惧したが、それは杞憂(きゆう)に過ぎなかった。登場人物や事件の概要を描く前半部と、捜査と裁判、そして結末を描く後半部がきちんとつながり、決して長さを感じさせないからだ。

 冗舌な映画監督であるスコセッシは、普通の長さの映画では語り尽くせないのか、全体のまとまりが悪くなったり、話が支離滅裂になるところがある。そう考えると、長時間にわたって語ることのできる配信系の映画にこそ、彼の本領が発揮されるのかもしれない。『アイリッシュマン』とこの映画の出来の良さを見ると、そんなふうに感じる。

 脚本はエリック・ロスとスコセッシが共同で執筆。撮影のロドリゴ・プリエトと音楽のロビー・ロバートソン(元ザ・バンド)は『アイリッシュマン』からの続投となった。ちなみにロバートソンは自らもインディアンの血を引く。

 ディカプリオは、当初は捜査官役を演じる予定だったが、「単なるFBIの捜査物にはしたくない」として、自ら駄目男のアーネスト役を希望し、それに合わせて脚本も書き直されたという。おじ(白人)と妻(先住民)の間で揺れ動くアーネストの二面性を表情豊かに表現するディカプリオの演技が見ものだ。

 一方、デ・ニーロが演じたヘイルは、一見先住民たちに同情的で親切な善人のように見えるが、実は陰で悪事の糸を引く大悪人。ところが彼も、先住民たちのことを理解し、愛してもいるという二面性を持っている。ある意味、この映画のキーワードは“二面性”なのかもしれない。

 ところで、ヘイルとアーネストの関係性は、かつて2人が共演した『ボーイズ・ライフ』(93)での、支配的な継父と義理の息子にも通じる気がして、そこもまた面白かった。

『ザ・クリエイター/創造者』(10月20日公開)

 2075年、人間を守るために開発されたはずのAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。人類とAIの戦いが激化する中、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させるAIを創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。

 だがそこにいたのは、幼い少女の姿をした超進化型AI(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのAIをアルフィーと名付け、守り抜くことを決意するが…。

 『GODZILLA ゴジラ』(14)はもちろん、『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(16)でもドニー・イェンを出演させるなど、アジアを強く意識していたギャレス・エドワーズ監督。今回も彼独特の摩訶不思議なアジアのイメージが見られる。

 その中で描かれる、ロスを爆破されたアメリカはAI撲滅を叫び、ニューアジアと呼ばれる東南アジアを思わせるエリアはAIと共存しているという対立構造を見ていると、何やらベトナム戦争や同時多発テロを想起させるところがあり、類型的な感じがしたのは否めない。

 そして、結局はジョシュアがアルフィーに感化される、つまりミイラ取りがミイラになる話なのだが、果たして幼い少女の姿をしたAIを殺せるのかというジレンマを描くことで、最近何かと騒がしい人間とAIの問題に一石を投じるところはあったと思う。

 また、『メッセージ』(16)『ブレードランナー 2049』(17)『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)のドゥニ・ビルヌーブ監督同様に、エドワーズ監督の特徴のある近未来のビジュアルが見どころの一つになっている。

(田中雄二)