映画監督・黒澤明の没後20年を記念し、彼の代表作のひとつである『生きる』が、珠玉のキャスト、スタッフによりミュージカル化される。今秋の開幕を前に、都内で製作発表が開かれ、Wキャストで主人公の渡辺勘治を演じる市村正親、鹿賀丈史らが登壇した。

会見冒頭にはキャストが劇中ナンバー4曲を生披露。まずは小説家役であり、ストーリーテラーの役割も担う新納慎也が、オープニングナンバーの「運命の曲がり角」を歌う。『生きる』をどうミュージカル化するのか、というのは恐らく多くの人が抱く疑問だろう。しかしこの1曲を聴くだけで、ミュージカルとしての『生きる』の道筋がくっきりと浮かび上がってくるよう。その繊細ながらも力強いナンバーは、これから始まる物語への期待感を大いに高めてくれる。

続いてヒロイン・小田切とよ役のMay’n、唯月ふうか(Wキャスト)が歌うのは、アップテンポなナンバー『ワクワクを探して』。さらに新納とのWキャストで小説家を演じる小西遼生が、渡辺にとって大きな転機となるナンバー『人生の主人になれ』を熱唱する。そして最後に市村と鹿賀のふたりが登場。あの名シーンを彷彿とさせるブランコをバックに、本作を象徴する昭和の名曲『ゴンドラの唄』を哀愁たっぷりに歌い上げる。そんなふたりの歌声に、一般公募で招待された150名のオーディエンスも聴き入っていた。

その後は作曲・編曲のジェイソン・ホーランド、演出の宮本亜門、歌唱披露した6名に加え、渡辺の息子・光男役の市原隼人、渡辺の上司である助役役の山西惇が一堂に会し、それぞれ作品にかける思いを語った。演出の宮本は、「これは悲しい作品ではありますが、“生きる”という喜びを心から味わえる作品。古いどころか、むしろ今の人々の心に一段と訴えるものが出来ると思います」と意欲を見せる。

市村はかつて自分が演じる渡辺と同じく胃がんを患っていたことを挙げ、「こういう役がきたのも、芝居の神様の采配かな」と感慨深げ。鹿賀も「いい年齢の時に、本当にいい作品に巡り合えた。ぜひ自分のものにしたい」と意気込む。また市原は、体調が優れない自分の父親から教わったという「動けるうちにいろんな世界を見た方がいい」との言葉に背中を押され、これまで避けてきたミュージカルへの出演を決めたという。

世界進出も視野に、ミュージカルとなって新たに生まれ変わる名作『生きる』。黒澤ファンならずとも必見の舞台になりそうだ。

取材・文:野上瑠美子