【台湾食べ歩きの旅 #9】たくさんの集魚灯をぶら下げた漁船。船体には「延縄釣」の文字がある。港には年季の入ったさまざまな船が並んでいる

3年半ぶりに訪れた蘇澳でビールとサメの燻製を楽しんだあとは、路線バスで漁港に向かった。

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そこはなんと台湾第二の都市、高雄に次ぐ水揚げ量を誇る漁港だった。

路線バスでぶらり漁港へ

【台湾食べ歩きの旅 #9】台鉄の蘇澳駅のすぐそばにある「蘇澳バスターミナル」には3つのバス停があり、ほぼ定刻通りにバスが到着する

日曜日の昼過ぎ。閑散とした蘇澳駅周辺をぶらぶらしていると、駅前ロータリーから100メートルほど離れたところにバス停があることに気づいた。

近づいてみると「蘇澳バスターミナル」と書いてあるのだが、バス2台がやっと停まれるほどのスペースがあるだけで、乗り換え客で賑わうターミナルのイメージとはほど遠かった。

それでも観光客らしき人が数人、ベンチに座ってバスを待っている。

何気なく柱に貼られた時刻表に目をやると、「南方澳(ナンファンアオ)」の文字。

羅東(ルオドン)の市場でクロマグロをさばいていたおじさんから聞いた地名だ。

クロマグロの水揚げ港、南方澳。こんなところからバスが出ていたのか。調べてみると、10分ほど乗れば南方澳港に到着する。

本数は少ないが、次のバスは15分後に来るらしい。ほとんど車も走っていない駅前の大通り。

本当にバスなんか来るのか不安になるほどだったが、とりあえず待ってみることにした。

路線バスは、旅行者にとってハードルの高い交通手段だ。

時間通りに来ないことはもちろん、同じ番号のバスでも微妙にルートが違ったり、支払いのタイミングが難しかったりして、台湾で暮らし始めた1990年台はかなり悩まされた。

座席シートが破けている車両は珍しくなく、気性の荒い運転手に当たるとスピードを出し過ぎるので激しく揺れ、常に何かにつかまっていないと危なかった。

あれから30年以上が経ち、台湾の路線バス事情はだいぶ改善されたようだ。

蘇澳バスターミナルにはほぼ定刻通りにきれいな大型バスが到着。乗降時に悠遊カード(交通系プリペイドカード)をピッとやれば支払い完了。

高雄港に次ぐ水揚げ量を誇る南方澳港

【台湾食べ歩きの旅 #9】南方澳港の漁師たち。すでに昼を回っていたので、港は漁師よりも観光客のほうが多かった

乗客が数人しかいないバスに10分ほど揺られる。蘇澳駅は少し内陸に入っているので、あまり潮風は感じられなかったが、南方澳に近づくに連れて視界が開け、じめっとした空気に塩の香りを感じるようになった。

港に差しかかると、漁船が遠くにちらほらと見え始めた。目当てのバス停に近づくにつれて、視界に入ってくる漁船の数は増え、通りの両側を観光客らしき人々が歩いていることに気づいた。

小さな縦長の漁港に重なり合うようにして、おびただしい数の漁船が停泊する様子は、まるで台北市内の縦列駐車を見ているようだ。

台湾の東海岸にこんな漁港があったなんて。背景をぐるりと山に囲まれているためか、風もなく静かな港に、数十、数百という大小さまざまな漁船が浮かんでいる。

【台湾食べ歩きの旅 #9】マグロの延縄漁を行う漁船。このサイズになると、船員14〜15人を乗せて沖へ出るそうだ

聞けば、南方澳港は高雄港に次ぐ水揚げ量を誇るそうだ。いやいや、恐れ入った。

台湾に7年住んでも、列車で台湾を何周しても気づかない町があるのだ。蘇澳という盲腸線の終点から、バスでわずか10分のところにある漁港。

調べてみると開港から100年を数える。もともと台湾の政府がこの地に漁港を整備していたが、ほとんど使われていなかった。

そこで、日本から漁業移民をつのり、九州や四国などから数十世帯を南方澳に招き入れたという。

入江のある南方澳は天然の良港であるうえ、東の海へ出れば黒潮に乗って北上するマグロやカジキの漁場がある。

日本人漁師たちはここで「突きん棒漁」などの一本釣りや、延縄(はえなわ)漁に精を出し、南方澳の名を台湾だけでなく、日本にまでとどろかせたという。

戦後、日本人が引き上げたあとは、地元の台湾人漁師が日本式の漁を引き継ぎ、今でも南方澳はマグロやカジキを始め、豊かな魚を台湾人の食卓に提供し続けている。