黒柳徹子  撮影:源賀津己 黒柳徹子  撮影:源賀津己

1989年から続く黒柳徹子主演の「海外コメディ・シリーズ」。ホームグラウンドにしていたル テアトル銀座の閉館に伴い、オープンしたばかりのEXシアター六本木に会場を移して上演されることになった。25年目を迎える今回は、2011年に初演した『想い出のカルテット ~もう一度唄わせて~』が再登場。引退した音楽家が集う老人ホームでの人間模様をテンポよく描き、評判を呼んだ作品だ。黒柳を中心にキャスト4人の顔ぶれは初演から変わらず、息の合ったアンサンブルにも磨きがかかる。自身のライフワークとして同シリーズに力を注ぐ黒柳に思いを訊いた。

『想い出のカルテット ~もう一度唄わせて~』チケット情報

「あんなにいい劇場(ル テアトル銀座)はなかったからどうしようかと思っていたんだけれど、私は本当に運が良くて」と語る黒柳。新たな劇場での再出発に選んだ本作は、『ドレッサー』で知られるロナルド・ハーウッド脚本による傑作喜劇だ。ダスティン・ホフマンが監督を務めた映画版も記憶に新しい。「映画とは最後が違うけれど、まず台本がいいんです。以前一緒にオペラを歌っていた4人が、音楽家の老人ホームで偶然出会うの。そこで昔共演した『リゴレット』の四重唱(カルテット)を、もう一度歌おうと奮闘するんです。年を取ることに負けずに、乗り越えようとする姿勢がすごいと思うのね」。

黒柳が演じるのは元・大プリマドンナのジーン。華やかな過去の栄光が忘れられず、ホームでは元プリマも元コーラスも同列扱いという現実に我慢がならない。「いつも彼女はカラ威張り。老人ホームにまでかつてのポジションを持ち込むのが可笑しいわよね。でも、もし森繁久彌さんと一緒の老人ホームに入ることになったら、やっぱり周りは『森繁さんのために何でもやります!』ってなるんじゃない?(笑) 現役時代の立場や優劣が残ってしまうのが問題だけれど、“そうかもしれないな”と思わせるのがこの作品の面白さでもあるんです」。はじめは頑なに歌うことを拒否していたジーンのこだわりの理由、また元夫のレジー(団時朗)とのたった9時間で終わった結婚生活の秘密が明らかになる一方で、心やさしきシシー(阿知波悟美)、ムードメーカーのウィルフ(鶴田忍)がそれぞれ抱える現実や情愛も細やかに描かれる。そんな彼らがコンサートに向けて一致団結していく姿が、観る者の胸を熱くさせるのだ。

「お客様にひと時でも世の中の憂さを忘れて笑っていただいて、『明日からも頑張ってやっていこう』と思っていただけたら」と力を込める黒柳。上質の喜劇を届けるという信念は揺るぎない。笑いと温かな感動が、劇場にひと足早い春を呼び込みそうだ。

3月8日(土)から23日(日)まで東京・EX THEATER ROPPONGI、4月3日(木)から6日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケットぴあではインターネット先行先着「プリセール」を実施中、大阪公演は1月18日(土)午後11時30分まで、東京公演は1月23日(木)午後8時まで受付。

取材・文:市川安紀