OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』 撮影:和田咲子 OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』 撮影:和田咲子

劇団鹿殺し制作のオフィス鹿が、Coccoの初主演舞台『ジルゼの事情』をプロデュース。1月16日、東京・CBGKシブゲキ!!で開幕した。作・演出・出演を担うのは、劇団鹿殺しの丸尾丸一郎。ほかに内田滋、ナイロン100℃の廣川三憲、鹿殺しのオレノグラフィティらが出演する。

渋谷・宮益坂にある純喫茶マーガレット。汁是優子(じるぜゆうこ)は、母とともに亡き父が遺した店を必死に切り盛りしている。常連客の森番太郎は優子に思いを寄せているが、優子は売れない役者の虻レ一志(あぶれひとし)にひと目惚れ。そんな中、土地開発を進める氷室という男から、店を立ち退くよう迫られ…。

『ジルゼの事情』というタイトルや、登場人物たちの名前からも分かるように、本作の原案になっているのは古典バレエの傑作『ジゼル』。バレエダンサーを夢見たCoccoのアイデアということだが、それを作・演出の丸尾は、現代を舞台にした幻想的で美しい、これまでにない悲恋物語へと仕上げてみせた。

もちろんその成功の大きな要因を占めているのが、自ら舞台に立つことを熱望したというCoccoの存在。映画『KOTOKO』で役者としての才能をも開花させたCoccoだが、やはり彼女はステージというライブな場所でこそより輝きを放つ。しかし舞台上に立っているのは優子であり、決してアーティスト・Coccoではない。その熱演に、役者としての底知れぬ可能性を感じさせた。

鹿殺しは音楽を重視した舞台づくりを得意とする劇団だが、本作ではそこを前面に押し出すようなことはない。しかし登場人物たちが自らの思いを吐露する時、言葉は歌へとかたちを変える。劇中、Coccoも歌声を披露するが、もちろん歌うのはあくまで優子として。その痛切な歌声は、観客の心に深く沁み入る。

さらに心奪われるのが、息をのむほどの美しさと消え入ってしまいそうな儚さを見せるCoccoのバレエシーン。特に内田と見せるダンスは、これ以上ないほど切なく、悲しいラブシーンとなった。

鹿殺し座長で、現在留学中の菜月チョビに代わり、演出を手がけた丸尾。これまでの鹿殺し作品は、大人の中にある子供心をくすぐるような、熱い芝居が多かった。しかし本作では、その熱はたたえたまま、しっとりとした大人の機微までも描き出す。舞台出演という夢を叶えたCoccoと、Coccoという素材を得てひと回り成長した鹿殺し。異色過ぎるコラボレーションの結果が、非常に有益かつ幸福だったことは、この舞台を見れば明らかである。

東京公演は1月26日(日)まで、大阪公演は1月30日(木)から2月2日(日)まで、ABCホールにて行われる。なおオフィス鹿は、3~4月に「楽団鹿殺し『喇叭道中音栗毛』」を上演予定。

取材・文:野上瑠美子