深田晃司監督

第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞などを受賞した『歓待』で国内はもとより世界で高い評価を受けた深田晃司監督。世界の映画祭をめぐりにめぐったその前作から時を経ること4年、深田監督から待望の新作『ほとりの朔子』が届いた。

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すでに周知の通り、主役に迎えたのは二階堂ふみ。目覚しい活躍を見せる若手女優のひとりである彼女との出会いを深田監督はこう明かす。「『映画秘宝』のベスト10で、二階堂さんが『歓待』を1位に挙げてくれていて。一方で、僕は単純に映画ファンとして彼女の出演作をいくつか観て“いい女優さんだな”と。第3回TAMA映画賞の授賞式の際、初めてお会いして“いつか一緒にやりましょう”という話しになりました」

このめぐり会いを経て誕生したのが今回の『ほとりの朔子』。作品は大学受験を失敗した朔子が気分転換を兼ねて訪れた叔母の家で過ごす夏の数日を描く。劇中では二階堂が18歳の朔子を等身大で表現。エキセントリックな役柄の続いていた彼女だが、それとは対極のごく普通の女の子役で新たな魅力を放つ。監督は「僕が二階堂さんに感じた印象を大切にして。彼女の“素顔”というか“素”の魅力を引き出せたらいいなと思いました」と語る。

ただ、魅力的なヒロイン映画の顔を持ちながら本作は、深田監督ならではの鋭い視点が光る1作でもある。震災の爪痕、いまの社会であり世界を取り巻く状況など、今、我々が生きている“世界”が構築された奥深いドラマに仕上がっていることも見逃せない。監督は「いかに自分ではない他者と関わり、生きていくのか? 常にこのことは僕の中にあって、多かれ少なかれ作品にいつも反映されている。また、僕が作りたいのは、観た人が主人公に感情移入して同化してひとつのカタルシスを得る映画ではない。目指すのは、観た人が100人いたら100通りの見解がある作品。そういう観てくれた人が思考をめぐらせる余白のある作品を作っていきたい」と明かす。

『歓待』に続き本作も世界の映画祭をめぐり、ナント三大陸映画祭では金の気球賞(グランプリ)と若い審査員賞を、タリン・ブラックナイト映画祭では最優秀監督賞を受賞と、国際舞台で受賞を重ねている。「映画祭をめぐる中で実感したのは、英語の話せない僕が作った作品を理解してくれる人は国内だけではなく海外にもいること。このことは大きな自信になっている」と深田監督。世界を視野に入れた日本の新鋭監督の新たな1作に注目を。

『ほとりの朔子』
公開中

取材・文・写真:水上賢治