ユーリ・テミルーカノフ ユーリ・テミルーカノフ

ロシアの名門サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団(以下SPO)が、3年ぶりに来日ツアーを行う。1988年より芸術監督を務める巨匠ユーリ・テミルカーノフが、その聴きどころや最新動向を語ってくれた。

「サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団 2014年 日本ツアー」の公演情報

世界中のオーケストラで楽員の国際化が進む中、地元サンクトペテルブルグ音楽院の出身者が大半を占めることで、その伝統を厳然と維持してきたSPO。1988年に巨匠エフゲニー・ムラヴィンスキーの後任に選ばれたテミルカーノフも、やはり同音楽院の出身だ。以来、四半世紀以上に渡ってこの名門と共に歩んできた軌跡を次のように語る。

「前身も含めると200年以上の歴史を持つSPOは、チャイコフスキーやグラズノフなども指揮台に迎えてきました。私は就任以来、そのよき伝統を維持しながら、時代に合った楽団運営と音楽作りに努めてきたつもりです」

注目のプログラムは、マーラー「復活」、ムソルグスキー「展覧会の絵」、ラフマニノフの交響曲第2番、チャイコフスキーの交響曲第4番をメインにした4つ。純度の高い“真のロシアン・サウンド”が期待されるふたつの交響曲の焦点を尋ねると、「それは“悲しみ”です」と答えるテミルカーノフ。

「チャイコフスキーは第1楽章の冒頭や第3楽章の舞曲に、ラフマニノフは第2楽章に、どちらもその後の人生の悲劇を予感させる深い悲しみが込められていると思います」

今回のツアーでは、前半の協奏曲に登場するふたりの優れたソリストも大きな魅力。ヴァイオリニストの庄司紗矢香と、ピアニストのエリソ・ヴィルサラーゼだ。

「紗矢香は、同世代の中で最も“考えて”音楽を構成できるヴァイオリニストのひとり。デビュー以来、何度も共演してきましたが、毎回大きな成長を遂げていて驚きます。一方、長年の友人でもあるヴィルサラーゼとは、チャイコフスキーの協奏曲第1番を一緒に弾きますが、彼女がこの作品を弾くのは約5年ぶりとのこと。広い見識と教養に裏打ちされた解釈によって、最初から最後の一音まで、常に新鮮な輝きに満ちた演奏を聴かせてくれることでしょう」

そして今回の来日ツアーでもうひとつ注目なのが、カンチェリ「アル・ニエンテ~無へ」の日本初演。グルジア出身の作曲者が2000年に作曲し、テミルカーノフに献呈されている。

「“静”と“動”のコントラストが大変印象的で、毎回楽しく指揮させてもらっています。ベースギターや多彩な打楽器が登場するなど、編成的な面白さにもぜひご注目ください」

取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)