『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』

西島秀俊が主演するアクション・サスペンス映画『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』が好調な動員を記録している。本作は西島がほぼスタントなしで壮絶なアクションに挑んだアクション作だが、これまでに数々の名作を生み出してきた“記憶をめぐるサスペンス”でもある。

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本作は、自宅で妻が死んでいるのを発見した主人公・石神(西島)が、警察をかたる男たちから逃れ、妻を捜し求める中で、自分の記憶が何者かに“上書き”されていたことを知り、その真相にたどりつこうとする5日間を描いている。

真犯人は誰なのか? 犯罪の動機は? 手法は? どんなトリックで追っ手をダマそうとした? サスペンス作品には数々の謎が埋め込まれており、観客は先の読めない展開を楽しむが、“記憶”もサスペンス映画の定番のモチーフになりつつある。クリストファー・ノーラン監督の『メメント』では短時間しか記憶を保持できない男のドラマが描かれ、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『トータル・リコール』では平凡な男が“擬似記憶”を買ったことをきっかけに自身の記憶が何者かに改ざんされていたことに気づく。科学的な処理を用いて失礼の記憶を消し去ろうとする主人公を描いた『エターナル・サンシャイン』では人間の記憶の愛しさが、傑作アニメーション『パプリカ』では人間の夢と記憶の不可思議さが存分に描かれた。

本作の主人公・石神はデザイン会社に勤務するいたって平凡な男だが、ある事件をきっかけに自身の“記憶”に疑問を持ち始める。俺は本当に石神なのか? さらに彼は無意識のうちに不可思議な数式を書き、学習もしていないのに台所にあるもので即席の爆弾を作り上げたりもする。石神はどのような記憶をもち、どんな記憶を“上書き”されたのだろうか?

記憶の分野は、いまだに謎や不明な点が多く、現在も研究が進められている。脳のどの部分が記憶にどのように作用し、刺激や感情や思考がどのような過程を経て記憶になり、保持され、引き出されるかについても“一定の成果”は出されているが、人間がそれを自在に制御するにはいたっていない。記憶の謎は多いが、それが人々の興味をひき、想像や考察が深まっている。“記憶の上書き”という大胆な設定を用いて観客を惹きつけ、ラストには“記憶”にまつわる深い人間ドラマも描いた本作も、これまで発表されたきた“記憶にまつわる映画”同様、長く愛されることになりそうだ。

『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』
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