新国立劇劇場オペラ「蝶々夫人」 提供:新国立劇場 撮影:三枝近志

栗山民也が演出を手がけ、2005年の初演以来、07年、09年、11年と上演を重ねてきた新国立劇劇場オペラの人気プロダクション「蝶々夫人」の再演が1月30日に開幕を迎えた。

新国立劇劇場オペラ「蝶々夫人」の公演情報

プッチーニ作曲のオペラ「蝶々夫人」は、明治時代初期の長崎を舞台に、アメリカ海軍士官ピンカートンの現地妻となった元芸者の蝶々さんが主人公。芸者の身分や、親族との縁も捨てた蝶々さんは、ピンカートンの帰国後も、産まれた息子と女中スズキとともに彼を待ち続けて3年。ピンカートンが祖国でアメリカ人の女性と結婚したことを知り、息子の引き渡しを求められて絶望の果てに死を選ぶ、という物語だ。

栗山演出は、作品誕生当時(日露戦争が勃発した1904年)の西洋と東洋の構図、異質な文化が共存しあう時代の緊張感がコンセプト。登場人物たちの心情描写に重点を置き、シンプルながらも美しいセット、歌舞伎にも通じる所作も取り入れ、プッチーニの甘美で劇的な音楽とともに、蝶々さんの一途な愛と悲しみを雄弁に語る。

再演初日は、蝶々さん役のアレクシア・ヴルガリドゥが健康上の理由で出演できなくなるアクシデントがあったたものの、急遽代役で登場した石上朋美(新国立劇場初登場)が、ピンチヒッターとは思えない素晴らしい演技を披露。蝶々さんは、ほぼ全幕出ずっぱりのうえ、高・中・低音いずれにおいても高い技量を要求される難役だが、それを見事に歌いこなし、観客から温かい喝采を浴びた。また、ピンカートン役のミハイル・アガフォノフ、シャープレス役の甲斐栄次郎らも、安定感のある力強い歌唱で、物語をしっかり支える。

指揮を務めた女流指揮者ケリー=リン・ウィルソンも同じく同劇場初登場。ザルツブルクでクラウディオ・アバドに師事し、これまでにウィーン国立歌劇場やバイエルン州立歌劇場ほか世界の主要オペラハウスに出演している。歌手陣の歌と演技のテンポに細やかな配慮で寄り添い、音の流動感に重点を置いた淀みない棒さばきは、オペラシーンで活躍している実力者ならでは。「蝶々夫人」の物語を美しくまとめ上げてみせた。

今後の新国立劇劇場オペラ「蝶々夫人」は、2月2日(日)、5日(水)、8日(土)に開催。チケットは発売中。