オペラ「夕鶴」新演出 撮影:三浦興一

市川右近(演出)、森英恵(衣装)、千住博(美術)、成瀬一裕(照明)、そして佐藤しのぶの主演というドリームチームで挑む、和製オペラの傑作『夕鶴』新演出が、1月18日に東京文化会館で開幕を迎えた。

オペラ「夕鶴」新演出の公演情報

木下順二の戯曲に團伊玖磨が作曲をしたオペラ『夕鶴』は、鶴の恩返しをもとにした、美しくも儚い純愛の物語。1952年の初演以来、国内外で800回以上も上演されてきた。

今回、日本の舞台・芸術シーンを牽引する賢人たちが総力を結集した新演出。「夕鶴のスコア冒頭のト書きに『いつともしれない物語。どこともしれない雪の中の村』と書かれているように、團先生は単なる民話劇に収まらない、宇宙を感じさせる大きなスケールの音楽を描きたかったはずです」と、演出の市川右近が語るように、従来の民話劇的な描かれ方から脱却し、いつの時代も変わらない人間の愛情や心の葛藤など、作品が内包する普遍的テーマにより焦点を当てたことがポイントだ。

舞台装置は、歌舞伎で用いられる廻り舞台を使用。民家や機織り機など「つるの恩返し」の民話を想起させるものは一切無く、シンプルなセットだけで構成され、小道具も最小限に留められた。背景のパネルなどの大道具を動かすことで場面転換を表現し、シンプルさの中に濃密なエッセンスを詰めた、まるで能舞台のようなイメージ。抽象化することで、観客の想像力を喚起し、作品の本質へと迫ることが狙いだ。

美術を手がけたのは、日本画の巨匠・千住博。幕が開いた瞬間、思わず息を呑んでしまうような美しさの雪景色が、場面を追うごとに変幻自在に変化。世界的ファッションデザイナー森英恵による衣装、舞台照明の第一人者である成瀬一裕が手がける照明とともに、幻想的な世界と登場人物の心象風景を描いて、物語を色合い鮮やかにしていく。

日本を代表するソプラノ、佐藤しのぶが「つう役」に初挑戦することでも大きな注目を詰めた今回の舞台。生前の團伊玖磨とも親交厚く、作曲者本人から何度もつう役を望まれながら、これまであえて封印してきた彼女が、全身全霊を込め、鶴の化身・つうを演じ、命の恩人である夫・与ひょうへの無償の愛を美しく歌い上げた。團のアシスタントを務め、世界各地で「夕鶴」を上演してきた現田茂夫の指揮による音楽、脇を固めた倉石真(与ひょう)、原田圭(運ず)、高橋啓三(惣ど)と濃密なアンサンブルを披露し、観客の熱い喝采のうちに初日の幕は閉じた。

オペラ「夕鶴」新演出は、4月中旬まで全国各地で開催される。