宝塚歌劇花組公演 撮影:三上富之

宝塚歌劇花組の男役トップスター、蘭寿とむのサヨナラ公演が2月7日、兵庫・宝塚大劇場にて開幕。フィッツジェラルドの未完の長編小説をミュージカル化した『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-』とショー『TAKARAZUKA∞夢眩』の2本立てで上演中だ。

宝塚歌劇花組公演『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-』/『TAKARAZUKA∞夢眩』のチケット情報

『ラスト・タイクーン』は、1930年代のハリウッド映画界が舞台。タイクーンと呼ばれる若き天才映画プロデューサー、モンロー・スターは、女優ミナ・デービスと婚約していたが、突然の事故で彼女を亡くしてしまう。心に大きな傷を抱えながらも、映画創りにさらなる情熱を傾けていくが、スタッフたちはモンローの強引なやり方に次第に反発するようになる。そんな中、モンローは亡きミナと瓜ふたつの女性キャサリンと出会い……。

宝塚歌劇団入団から20年、男役ひと筋で生きてきた蘭寿のラストステージ。その集大成となるモンローは、セクシーで大人っぽく、強引な中にも情熱と温かい愛情を持った男。蘭寿の魅力をたっぷりと感じられる役柄だ。スタッフたちを先導切ってまとめる姿や、モンローの映画にかける想いや夢を綴った曲を歌う場面は、トップスターとしての蘭寿、そして宝塚歌劇で生きてきた蘭寿の姿に自然と重なり、“ラスト”を感じさせる。

次期トップスターとなる明日海りおは、モンローを育て上げた映画プロデューサーのブレーディ役。モンローの活躍に嫉妬し、モンローをおとしめようとする憎まれ役だ。フレッシュな印象の明日海が、年配の男性を声のトーンや佇まいなど、深みのある表現で演じているのにも注目だ。

第二幕のショーは、幕開きからリズミカルで勢いのある印象。怪しげな雰囲気からスタートし、一瞬にして、宝塚歌劇ならではの煌びやかな空間へと変わる。スターが歌い継ぎ、それぞれの個性が観客に届くような演出で楽しませる。また、KENTO MORIの振付によるシーンでは、銀狼に扮した蘭寿が独特のステップや表現で魅せる。ラストを思わせる演出も見どころで、蘭寿がひとり銀橋に立ち、組子一人ひとりを見渡していく姿には、胸に熱いものがこみ上げてくる。男役の真骨頂である大階段での黒燕尾は、ため息が漏れるほどに美しく、蘭寿を始めとする花組の力を見せつけられる。新しさとクラシックな宝塚歌劇の魅力、そして蘭寿の美しいダンスをたっぷりと堪能できるステージだ。

兵庫公演は3月17日(月) まで上演中。

取材・文:黒石悦子