デザイン性を高めながらシニア層にも見やすい「dynabook」のキーボード

【日高彰の業界を斬る・10】2017年度の家電市場全体はおおむね堅調に推移し、売り上げを伸ばしたメーカーや販売店が多い。テレビや洗濯機・冷蔵庫などの大型生活家電で、高級機がよく売れた。一方、販売の伸び悩みが指摘されているのが、一昔前までは家電量販店の稼ぎ頭だった、PCや携帯電話などの情報家電である。 とくに、PCは前年割れが続いている。企業向けの市場では、「働き方改革」の機運が追い風となって軽量なノートPCへの買い換えが進んでいるが、一般家庭向けの市場は軟調。企業向けの販売に特化したPCメーカーや業者は潤っているが、家電量販店の店頭で売られる製品を手がけるコンシューマ事業の部門からは、いい話を聞く機会がめっきり減った。

多くの消費者の生活に密着している携帯電話市場は、PCと比べればまだ活気はあるが、もはやスマートフォン(スマホ)の販売台数が毎年2ケタ成長で伸びるような時代ではない。とくに、17年度上期は一昨年の後半で行われた「実質0円販売」の規制強化の余波で、調子を取り戻せなかった販売店も散見された。

コジマの携帯販売が前年比18%増

ただ、「PC市場はモバイル端末に喰われ縮小」「スマホ普及は一巡、コモディティ化で価格下落進む」といった、ここ数年いわれ続けている“一般論”だけでは説明できない動きもある。

それを強く感じたのが、先日行われたビックカメラグループの決算説明会の場だった。同社の18年8月期上期(17年9月~18年2月)実績で、PC・携帯電話とその周辺機器を含む情報家電の販売は、前年同期比7.3%増となる1334億円。グループの全売上高の約3分の1を占める。中身を見ても、ビックカメラでPC本体の販売が前年比15.4%増、コジマで携帯電話の販売が同18.0%増と、情報家電不況といわれるなかでめざましい業績をあげている。

とくに、IT製品の上級者がよく訪れる都市型店と異なり、ファミリー層・シニア層の利用が多い郊外型店のコジマで携帯販売が伸びているのは注目に値する。コジマは同期間のデジカメ販売でも前年同期比12.9%増と伸ばしており、ビックカメラ傘下に入ってデジタル商品のノウハウを吸収してきた成果が確実にあらわれている。

コジマの木村一義会長兼社長は、「郊外型店の当社では、これまで情報家電の取り扱いに苦手意識があったが、最近は“人”に対する投資を強化してきた」と話し、品揃えや陳列方法といった定型化しやすいノウハウに加えて、現場の販売員の説明・提案スキルに磨きをかけることで、市場全体として低調なカテゴリで堅実な売り上げを確保することができたと説明する。メーカー各社は、人が集まる駅前店に販売応援員や販促グッズを積極的に投入するが、客の密度が薄い郊外店にあまりコストをかけたがらない。コジマにとって、自社の販売員がデジタルカメラやスマートフォンをきちんと説明できるようになることは切実な課題だった。

またコジマでは、PCやスマートフォンなどについて設定作業代行(有料)や点検・診断などを提供する「サービスサポートカウンター」を24店舗に設置しており、カウンターを設けた店舗とそれ以外の店舗で「デジタル商品の売り上げが目に見えて変わってくる」(同社幹部)という。「近所の電器店」にサポート窓口があることが、シニア層の購買ハードルを下げるのに大きく寄与しているようだ。同社では、8月末までにカウンター設置店舗を31店舗に拡大する。

18日に東芝がノートPC「dynabook」の新製品を発表したが、同社が最も力を入れて説明したのが、キーボードの文字を見やすいデザインにしながら操作性を高めた点だった。新製品のアピールポイントとしては非常に地味な部分だが、確かに前のモデルと見比べると見やすさは明らかに違う。

同社が商品企画にあたって参考にした調査によれば、50代・60代の消費者の9割以上がPCを利用しているが、そのほとんどに新機種の買い換え意向がある、もしくは故障したら買い換えを検討するとしており、PCからスマホ・タブレット端末に完全移行するつもりのユーザーは1割以下だったという。

テレビや白物家電に対して不振が伝えられることの多い情報家電。しかし、ITとの親和性が高くないとされていた郊外やシニアといった市場でも、しかるべき方法で提案が行えればまだまだ需要を掘り起こせる可能性がある。(BCN・日高 彰)