リー・ダニエルズ監督

全米で興行収入1億ドル突破の大ヒットを記録した『大統領の執事の涙』を引っさげ、リー・ダニエルズ監督が初来日を果たした。ホワイトハウスで7人の米国大統領に仕えたアフリカ系アメリカ人執事の実話を描いたヒューマンドラマ。ダニエルズ監督は「アメリカにおける人種差別の歴史を、執事の目線で描けるのは素晴らしいこと。さらにこれは執事とその息子の物語でもあるんだ」と語る。

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バラク・オバマの歴史的快挙に沸く2008年、「ワシントン・ポスト」に掲載された実話をベースに、ハル・ベリーをアカデミー賞主演女優賞に導いた初プロデュース作『チョコレート』(2001)、アカデミー賞助演女優賞と脚色賞に輝いた『プレシャス』(2009)のダニエルズ監督が手腕を発揮した本作。全米公開時には「黒人版『フォレスト・ガンプ』」と評され、オバマ大統領は「目に涙があふれた」と絶賛した。

激動のアメリカ史を活写すると同時に、白人に仕える主人公の執事セシル・ゲインズ(演じるのはオスカー俳優のフォレスト・ウィテカー)と、そんな父親に反発し、公民権運動に身を投じる息子との確執と和解にもスポットを当てている。“父と息子”というテーマは、ダニエルズ監督にとって切っても切れないテーマだという。「私が13歳の時に亡くなった父は、生前、苛立ちや怒りを抱えていることが多かったんだ。理由はマイノリティーとして生きることの苦悩だったが、幼かった私には理解できなかった。今回、この映画を作ることで父の苦しみを分かち合えたし、許すことができたんだ」とダニエルズ監督。現在は、思春期を迎えた息子と向き合っているといい「なぜ、人種差別が存在するのか、息子にどう説明したらいいかわからない」と胸中は複雑だ。

それでも『大統領の執事の涙』はダニエルズ監督の持ち前の明るさが活きた、さわやかな涙を誘う感動作に仕上がった。「そう、怒りをためこんじゃいけないんだ。怒りは人間の精神に巣食うからね。人種や世代を超えて、幅広く観てもらえる作品を目指したから、日本のみなさんにもぜひ楽しんでほしいんだ」(ダニエルズ監督)。

『大統領の執事の涙』
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取材・文・写真:内田 涼