土方宏史監督

あらゆる創作活動が波風の立たない、無難な内容に収まる傾向が強くなっている気がする昨今の日本。その中で、この局の存在は際立つ。常に賛否ある題材に挑むことを恐れず、ドキュメンタリー作品を生み出し続ける“東海テレビ”。『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』に続き同局から届いたテレビドキュメンタリー劇場第6弾『ホームレス理事長~退学球児再生計画~』もまたまたチャレンジングな1作だ。

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本編でも触れている2009年のデータでは、高校野球連盟の調査によると約6万人が野球部の門を叩きながら、うち約9000人の生徒が様々な事情で中途退部しているという。今回、東海テレビの取材クルーが追ったのは、そんな高校をドロップアウトし、甲子園への夢破れた高校球児たちに「再び野球と学びの場を」と創設されたNPO法人“ルーキーズ”だ。このチームとの出会いを今回がドキュメンタリー番組初挑戦となった土方宏史監督はこう明かす。「ルーキーズを取材したのは夕方のニュース番組でのこと。グランドを訪れると、人気漫画「ルーキーズ」と変わらない、やんちゃな元球児(笑)が懸命に白球を追っている。指導する池村英樹監督も暴力問題で野球界を追放され、ここが再出発の場となっていて。今後も彼らの活動を追ってみたいと思いました」。

作品はなかなかチームに馴染めないひとりの少年を機軸にしながら、山あり谷ありのルーキーズの活動の日々を記録する一方で、資金難で金策に奔走する山田豪理事長の姿を追う。この山田理事長だが抱く理念はすばらしいが交渉下手。にっちもさっちもいかず、闇金に手を出そうとするは、あろうことか取材クルーに金を無心するはと、危なっかしい。「いまだに理事長が何を考えているのかわからない(笑)。でも、とにかく子供たちのためにルーキーズを絶対に守らなくてはならないと思っているのは確か。そのためなら、自宅の水道・電気・ガスが止められても構わない。これは真似できそうでできない」。

また、作品中には池村監督が選手に9発ものビンタをあびせるシーンが収められている。これは物議を呼び、東京での放送は見送られた。でも、考えてほしい。このシーンをカットして伝えることが果たして正解なのか? と。土方監督はこう投げかける。「“命”に関する重要なシーンでしたからカットは考えませんでした。暴力を肯定しているわけではありません。このシーンの何が問題なのかを皆さんと考えられたらと思います」。

『ホームレス理事長~退学球児再生計画~』
公開中

取材・文・写真:水上賢治