舞台『想い出のカルテット~もう一度唄わせて~』  撮影:谷古宇正彦 舞台『想い出のカルテット~もう一度唄わせて~』  撮影:谷古宇正彦

黒柳徹子の主演舞台『想い出のカルテット~もう一度唄わせて~』が3月8日(土)、新劇場のEX THEATER ROPPONGIにて開幕する。コメディエンヌ・黒柳徹子の魅力を存分に味わえる“海外コメディ・シリーズ”の第28弾だ。今年で25周年を迎える本シリーズにおいて再演となる今回の作品は、舞台『ドレッサー』、映画『戦場のピアニスト』などで知られるイギリス人脚本家ロナルド・ハーウッドの傑作戯曲。引退した音楽家たちの、老いてなお今を力強く生き、過去の栄光の輝きをもう一度取り戻そうと奮闘する姿が、笑いと感動で描かれる。好評を博した2011年の初演の演出を手がけ、黒柳とともに本シリーズを支えてきた高橋昌也が再び指揮を取る予定だったが、惜しくもこの一月に逝去。高橋演出の基盤のもと、黒柳を始め阿知波悟美、団時朗、鶴田忍の初演メンバーが再集結して、意気も新たに悲喜こもごもの人間ドラマの構築に挑む。その稽古場を訪れた。

『想い出のカルテット~もう一度唄わせて~』チケット情報

物語の舞台はとある老人ホーム。かつてのオペラ仲間であったシシー(阿知波)、レジー(団)、ウィルフ(鶴田)が暮らすその場所に、プリマドンナとして一世を風靡したジーン(黒柳)がやってくる。さまざまな過去を思い起こして心乱れる4人。そんな彼らにホームでのコンサートで『リゴレット』の四重唱を披露しようという話が持ち上がる。葛藤を抱えながらも、再び人前で唄うことを決意した4人は……。

ソファなどが置かれた舞台面に向かうようにして、稽古場の中央には高橋の演出席が設けられていた。机の上に置かれているのは台本と、愛用していたタバコと眼鏡。そして故人の顔写真のスタンドがステージを見つめるように立てられている。その演出家の視線を受けながら、4人の俳優はあうんのリズムで朗らかにシーンを進めていた。自由奔放なジーン、世話好きのシシー、生真面目なレジー、お調子者のウィルフ…。構えや飾りなどいっさいなく交わされる会話の応酬から、登場人物たちの愛すべき個性が浮かび上がる。少しずつ台本を改訂して初演版とは違ったシーンが作られていくが、初演から続く4人の関係性、その抜群の安定感は揺るがない。目の前で展開する巧者たちのやりとりにスタッフ陣も引き込まれて、稽古場に何度も温かな笑いがこぼれた。だがシシーが認知症の症状を見せるシーンになると、緩んだ頬が硬直。演出席の真向かいに立ち、笑顔の阿知波に向けた黒柳ジーンの叫びに胸を突かれる。「しっかりして、シシー! お願いだから。仲間と一緒にここにいるの!」

年輪と技を積み上げた表現者から示される、可笑しくもせつない人間の生きざま。愉快な四重唱が演劇の楽しさとともに、かけがえのない人生の気づきを与えてくれる。

3月8日(土)から23日(日)まで東京・EX THEATER ROPPONGI、4月3日(木)から6日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケット発売中。

取材・文:上野紀子