(左から)土屋太鳳、内田英治監督 (C)エンタメOVO

 『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督が原作・脚本・監督を務め、マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖をオリジナルストーリーで描いたサスペンススリラー『マッチング』が、2月23日から全国公開される。内田監督と、本作で主人公の輪花を演じた土屋太鳳に話を聞いた。

ーまず内田監督、どうしてこういう話を思いつき、映画にしようと思ったのでしょうか。

 中学時代からスリラーとかホラーが好きで、推理小説も好きで、いつかやりたいなと思いながら、何年もたってしまいました。こういう作品はテーマや、そのベースになるストーリーラインが結構重要だったりもするのですが、それがなかなかなくて。それで、5年ぐらい前にマッチングアプリではこういう話もあるだろうなって思いついたんです。これはいいなと思いながらも早5年がたち、今回ようやく撮影ができました。

ー土屋さんのキャスティングはイメージ通りでしたか。

 イメージとは全然違いました。いい意味で、イメージしていたよりはすごくリアルな感じなんだなと。日常的ではない存在感みたいなことを思っていたんですけど、リアリティーもあって、とても日常的なものも出せる人なんだと思いました。もっとキラキラしているはずだと思っていました(笑)。今回は映画的なリアリティーがあったと思います。

ー土屋さんは、最初にオファーがあった時と、最初に脚本を読んだ時の印象を聞かせてください。

土屋 オファーがあった時はまだ脚本が出来上がっていなくて、最初はもっとつらいお話で、「私、こんなのできないかも。この話は耐えられない」と思いました(笑)。1年前ぐらい前に、監督の『ミッドナイトスワン』(20)を見て、衝撃というか、ショックを受けました。何で自分は好きでお芝居をしているのに、こういう世界に入れないんだろうと考えてしまって。見た人の人生に大切なものを残す映画を作った監督とぜひご一緒したいと思ったので、内田監督と聞いた時点で、やりたいですと。

内田 そうしたらスリラーだった。

土屋 「あー、そっちなのかって」(笑)。だから、今度はもっと穏やかというか、スリラーではないものでご一緒したいです。

内田 分からないですよ。次があるかもしれないし、そうしたらまたスリラーです(笑)。

ー輪花の役作りについて、監督とディスカッションはしたのですか。

 私が覚えているのは、ある登場人物がマンションの上から落ちてくるシーンです。全然想像ができなくて、感情があまり乗らなかったんです。その時、監督から「ダンスを踊るつもりでやってもらえる? 体で表現してほしい」と言われて、頑張ってスイッチを思い出してお芝居に出そうと思いました。監督が話してくださったのは「僕が大事にしているのはライブ感。ライブでは、本番でしかできないパフォーマンスがある。お芝居も同じだと思って、ライブのように撮ったら、たくさんの人に見ていただけるようになった」ということでした。私はその考え方がすごく好きで、そういう本番にしか宿らない、瞬間のパワーみたいなものを信じてくださっている監督との会話のキャッチボールで救われたなと思います。

ー今回は、土屋さんが絶叫するシーンも多くあり、スクリーミング・クイーンのような土屋さんがとても印象に残りました。ある意味、新たな挑戦だったと思いますが。

 もともと小さい頃からあまり声が出なくて、すぐに枯れちゃうんです。でも、叫んでも枯れないんだと実感できたのがこの映画でした。多分、ちゃんと感情が乗ったのだと思います。感情が乗らずに叫んだら声が枯れるんです。だから、叫び方も、ただの「キャア~」だけじゃなくて、常にいろんなことを考えて、情報を持っての「キャア~」が出せたらいいなと思いました。

ー監督、実際にマッチングアプリを利用して幸せになった人もいますが、この映画ではマイナス面や怖い面も描かれていますね。

 そうですね、基本的にはマッチングアプリは、とても現代っぽくて、いいものだなとは思います。ただ、幸せの裏には当然不幸もある。今回の映画は、その半面を描いています。マッチングアプリは出会いのきっかけになるだけであって、実際には、人間同士で発展させていくわけですから。

ー土屋さん、金子ノブアキさんと佐久間大介さんとの共演はいかがでしたか。

 金子ノブアキさんは、役と向き合う姿勢が素晴らしい方だと思います。演じているというよりも、役として生きている方なのかなと。役として本当に怖いんですよ。本当に危機を感じるというか、何をしでかすか分からない狂気を感じます。普段はとても柔らかくて、少年のような気持ちをずっと持たれている方で、お芝居とはギャップがあります。ただ、ドラマーでもある金子さんが「ドラムというのは、力を入れるだけではたたけない。たたく時だけ力を入れてあとは全部力を抜いていく」とおっしゃっていて。役への入り方でも、それを意識されているのかなという感じはありました。

 佐久間さんは、私が18歳の時に、「滝沢歌舞伎」で初めて拝見させていただきました。それから私がMCをしていた音楽番組に出てくださいました。ライブをやられているので、オンオフの切り替えをしっかりなさっている方だなと思います。本番前は、金子さんとふざけ合っていて、これでよく役に入れるなと思いましたが、しっかりと切り替えて演じるのを見て感動しました。今回の吐夢という役は、抑揚がなくて、何で? ということもするとても難しい役。でも、そこにリアリティーを持たせなければならないという部分では、佐久間さんはすごく考えていて、監督にもたくさん質問をしていました。私はそれをじっと見ていました。

ー最後に、これから映画を見る観客に向けて、見どころなどをお願いします。

内田 今はやりの考察。どうなるか分からないというのは、結構見ていて楽しめるんじゃないかなと思います。一応、三転以上はさせようと思って作ったので。考察、要は推理ですよね。そこを楽しんでいただきたいなと思います。

土屋 マッチングアプリを題材にしていますが、人の本質を見るとか、人間関係を丁寧に作っていこうというようなことも伝わったらいいなと思います。その上で、物語に一緒に飲み込まれながら、巻き込まれながら、今、監督もおっしゃいましたけど、私は二転、三転、四転、五転ぐらいあったかなって思います。ぜひ、誰が犯人だとかを考察してください。

内田 役者さんたちはみんな、微妙な、裏の演技をしているんです。見た後で、実はこうだったって思うような微妙な芝居をしているので、それを見つけるのも面白いと思います。

ーでは、何回も見た方がいいですね。1回目だけでは分からないこともある。

内田 そうですね。何回も見てもらって、ヒットしたら、船を借りて『マッチング2』を作ります。

(取材・文・写真/田中雄二)