キャラメルボックス『あなたがここにいればよかったのに』 撮影:伊東和則 キャラメルボックス『あなたがここにいればよかったのに』 撮影:伊東和則

派手な演出を抑え、登場人物の心情の揺れを繊細に描き出す、演劇集団キャラメルボックスの「アコースティックシアター」シリーズ。今回は初の回替わり上演で、『ヒトミ』『あなたがここにいればよかったのに』の2本立てでお届け。2月21日、大阪・サンケイホールブリーゼにてその幕を開けた。

キャラメルボックス 公演情報

『ヒトミ』は1995年に初演、2004年に再演されて好評を博した、劇団の代表作とも言える作品。交通事故で頸髄を損傷し、全身麻痺となったピアノ教師・ヒトミが、開発中の医療装置のモニターとなり、ふたたび動ける身体を取り戻そうとする姿が描かれる。

絶望と希望、期待と不安……。ヒトミが抱えるさまざまな想いが、胸が痛くなるほどに伝わってくる。そんな彼女が最後に踏み出す1歩、そして彼女を支える周囲の人たちの温かさに観客は涙。重いテーマでありながら、笑いを散りばめた絶妙なバランスで、テンポ良く展開していく。劇団員の熱演に加え、唐組・稲荷卓央の出演でステージにより厚みが増している。

一方、『あなたがここにいればよかったのに』は、真柴あずき脚本・演出による新作で、男性が主人公。恋人のプロポーズを受けた翻訳家を目指す女性、日高まひろの前に、「未来が分かる」と言う見ず知らずの男性・天野大志が現れ、結婚をやめるように告げるという、タイムトラベルものだ。

天野の言葉に疑いを持ちつつも、揺れ動くまひろの心情。そして、まひろの結婚を何としてでも食い止めたい天野。ふたりの想いのぶつかり合いに最初はもどかしさを感じるかもしれないが、そこから感じ取られるのは、「人を信じること」や「幸せとは何か」というキーワード。ファンタジックな要素と現実とがうまく混ざり合った作品だからこそ、より深く伝わってくる。

どちらの作品も、“人が人を想う気持ち”というキャラメルボックスの一貫したテーマのもとに作られ、登場人物の心情を役者たちが丁寧に表現。切なさと優しさと笑いが入り混じった展開と、熱を帯びた役者の演技に観客はグイグイと惹きこまれ、心を揺さぶられるだろう。普段、当たり前になってしまったり、忘れてしまいがちな“人の温かさ”を改めて感じさせてくれる両作。劇場を出るときには、ほっこりとした気持ちに満たされるだろう。

大阪公演は25日(火)までサンケイホールブリーゼにて。その後、3月1日(土)・2日(日)に名古屋・名鉄ホール、3月6日(木)から23日(日)に東京・サンシャイン劇場にて上演。チケット発売中。

取材・文:黒石悦子