山添くんと藤沢さんの関係性が、現場ではずっと続いていた気がします

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――藤沢さん役の上白石萌音さんとは、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK/2021年下半期放送)で、夫婦役として共演しましたが、その際の経験が上手く作用したと思うことはありましたか。

最終的には死別してしまいますが、夫婦を演じたことで、役を通した不思議な絆のようなものがあったと思います。上白石さんもインタビューを一緒に受けたときに、以前の経験がいい形で作用したと思うとおっしゃっていました。

お芝居をする上で、この人に対しては何でもできるというか、変な違和感のようなものを感じることなくできる感覚がありました。今回、再会したときも、すでにお互いに役のモードに入っていたので、劇中の二人のような関係性で会話ができていました。

後腐れのない会話というか、ずっとしゃべっているわけではなく、一旦、盛り上がって、それが収まるとしゃべるのを止めてみたいな。役としてしゃべっているとかではないですけど、山添くんと藤沢さんの関係性が、現場ではずっと続いていた気がします。それは朝ドラでの地盤があったからできたんじゃないかと思っています。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――藤沢さんと山添くんの友達でもない、恋人でもない、既存の関係性を言葉では表現できないような間柄がとてもいいなと感じました。

僕も上白石さんもその微妙な関係性を表現することを、すごく意識しながらお芝居をしていました。例えば、夜、二人きりで部屋で過ごすとか、一般的な捉え方をすると、恋愛感情のようなものが存在するんじゃないかと考えてしまうと思うんです。

ポスターとかにも使われている二人が並んでいるメインビジュアルも「恋愛関係なのでは?」と勘繰れる距離感だったりしますけど、当人たちには全くそういう意識がない。

そんな不思議な関係だけに、とりあえず、僕ら二人が思うままにお芝居をしてみると、傍から見たら「本当に恋愛感情はないの?」とツッコミを入れたくなるようなときもあったんです。そのときは二人の間の距離を少し離してみたり、逆に近づけてみたり、いろいろとシミュレーションをしながら調整していきました。

部屋でのシーンも、机を挟んで向かい合って二人が座っているんですけど、三宅さんは、もしかしたら二人が一緒に部屋で過ごした時間の中には、横並びに座っていた瞬間もあったかもしれないけど、そこは敢えて切り取らないという調整をしてくれて。

藤沢さんが二人で食べたポテトチップスの残りを口に流し込む場面も、どこで食べるのが一番いいかを何回も試してみたり。あくまで映画を観た人の感覚を大事にしながら、三宅さんが二人の絶妙な距離感をチューニングしてくださいました。

演じる僕らに対しては、「二人にこういう瞬間もあったかもしれないけど、映像ではこの瞬間を切り取りましょう」と、僕らに嘘が生まれないようにしてくださって、映画を観た人には変な勘繰りをしなくてもいいように見せてくださって、どちらにとってもベストな選択をしてくださる監督でした。

――一度、夫婦役で共演されているお二人だからこそ、観る側が勘繰ってしまう部分もあったと思うのですが、その点について上白石さんと話すことはありましたか。

そこに関してはしなかったです。というのも、しなくていいくらい物語自体に説得力がありましたし、三宅さんが撮るものに対して信頼がありました。それは撮影が始まってすぐにわかったので、二人で話す必要がなかったです。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――藤沢さんが山添くんの髪の毛を切るというシーンは、実際の松村さんの髪の毛を上白石さんが切るという場面でしたが、現場はどのような状況でしたか。

緊張しました。上白石さんは実際の僕の髪の毛を切るということで、切る位置とか、いろいろと間違えられないというプレッシャーがあって。僕は切られるだけなんですけど、逆に僕がした小さな何かで、上白石さんの成功を潰すことになったらどうしようと思うと、どんどん緊張して硬くなってました。

けど、それじゃあダメだと思って。左側の髪の毛を切られるんですけど、「最悪、右側が残ってるし」と思うようにして、気持ちを落ち着けるようにしていました。台本上、髪を切られたあとに笑うとなっていたんですけど、それももし切られてみて、面白くなかったら笑わなくもいいやとも思うようにして。

「藤沢さんが切るって言うから切らせてあげよう」みたいな感覚に僕自身もなって、「どうなのかな~」くらいで挑んでみたら、本番であんな音は聞いたことがないって思うような音がしたんです(笑)。

テストの段階では本当の髪の毛を切ることはできないから、ハサミを持って切る動きだけをやっていたんですけど、いざ本番になって、実際の髪の毛にハサミを入れてみると、結構な量を手に取っているから、ひと断ちでは切りきれなくて。

“ジョ、ジョ”って髪にハサミを入れる音がして、しかも刃先に行くと力が伝わらなくなるからなかなか切れなくて、3断ちくらいでようやく切れたから、その時の音と、髪の毛がスカって無くなる感覚が、片耳が取れたのかな?と思うくらいの衝撃でした。

そのおかげで冷や汗もかきましたし、とんでもないことが起きているような気持ちになって、急いで切られたところを見てみたら、よくお笑いでも緊張と緩和みたいなことを言いますけど、まさにその感覚で。

髪が切れてる以外は何もなくて良かったという安堵感と、切られたあとがパツンと真っ直ぐになっていたことの面白さとで、演技ではなくて本気で笑ってしまいました。カットがかかったあと、ちょっと笑い過ぎたかな?って思いましたけど、本気ですごく面白かったです(笑)。