『グロリアの青春』に主演したパウリーナ・ガルシア

本作の主人公グロリアはチリの首都サンティアゴで暮らす58歳の女性だ。子育てを終え、10年以上前に夫と離婚しているグロリアは、昼は会社で働き、夜や休日は自由に人生を楽しんでいる。映画はそんな彼女がダンスホールで年配の男性に出会い、人生の第二章を生きようとする姿を描いている。

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監督を務めたセバスティアン・レリオは本作の制作時にはまだ30代で、“母親世代の女性の世界を描く”というアイデアを思つき、ガルシアに声をかけた。「自分のために役が書かれるなんて一生のうちで何度もあることではないので光栄でした。私がこの物語を面白いと思ったのは、それまで脇役だと思われていた女性がどうやって物語の主役になるのか? その道筋が面白いと思ったんです」。

社会には性別関係なく独身で人生を謳歌している年配者はたくさんいる。グロリアもそんな女性のひとりだ。しかし、ただ観客から共感を得られる独身女性を演じるだけでは、物語は成立しない。「その通りです。ですから私がグロリアを演じる時にまず考えたことは、彼女の強さは“もろさ”の結果なんだ、ということでした。彼女はいつも迷いますし、不安定で確固たる時間が持てずにいます。その傷つきやすさが強さになって現れるのです」。確かにグロリアは毎日を楽しみ、無礼な人間には臆することなく食ってかかり、男性にも積極的にアプローチする強さを持っているが、どんな時も隠しきれない孤独を抱えている。

そんなガルシアは、演技をする前に必ずジョン・カサヴェテス監督の作品を観るという。「映像の仕事をする前には必ず『こわれゆく女』と『オープニング・ナイト』を観ます」。思い返せば、本作の主人公グロリアは、大きなメガネをかけた離婚経験のある強い中年女性で、カサヴェテス監督がジーナ・ローランズを主演に撮った名作『グロリア』の主人公と少しだけ共通点がある。「もちろん! この映画はカサヴェテスの『グロリア』へのオマージュでもあります。この映画を作るためにアンドレアス・ドレーゼンの『クラウド9』など様々な映画を観ましたが、私の中で演技の手本はいつもジーナ・ローランズなんです」。

強烈な個性、強さと、その裏側にある不安と孤独。かつてローランズが数々の映画で演じ、生み出してきた女性像は時間を超え、海を超え、チリという国でガルシアのアイデアと混ざりあって新たな“グロリア”を生み出した。

『グロリアの青春』
3月1日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー