シャーロックを演じる竹内結子

 世界一有名な探偵、シャーロック・ホームズ。これまで何度も映像化されてきたこの名作ミステリーが、現代の東京を舞台によみがえる。しかも、主人公のシャーロックは女性だ。コナン・ドイルの原作をリスペクトしつつ、大胆な新解釈を加えたこの作品に主演したのは竹内結子。4月27日からHuluの日本国内での配信に加え、世界19カ国で同日放送される本作の演技に込めた思いを聞いた。

-オファーを受けたときの気持ちは?

 まず純粋に面白そうだなと。シャーロック・ホームズを今の日本に置き換えて、女性コンビにする。そうすると、きっと目線やそのありさまなどがいろいろと変わるはず。それがどう日本風になるのかが楽しみで、やってみたいと思いました。

-最初に話を聞いて、魅力を感じたのはどんなところでしょうか。

 最初にお話を頂いたとき、仮の台本を読んで一番、魅力を感じたのが、主人公シャーロックのキャラクターです。ものの言い方はひどいし、他人に冷たく、思いやりがない。いわゆる日本的な「おもんばかる」という部分がゼロの、ものすごく変な人です。だけど、どこか憎めない。そんな彼女が、いかに相棒の和都との距離を詰め、友情を芽生えさせていくのかが楽しみでした。

-シャーロック・ホームズを主役にした作品はこれまでも数多く作られていますが、演じる上で他の作品は参考にしましたか。

 影響を受けたくなかったので、他の作品は見ないようにしました。途中まで見ていたベネディクト・カンバーバッチさんの「SHERLOCK/シャーロック」も中断(笑)。コナン・ドイルの原作も、初期の作品を読み直してみましたが、「きっと生い立ちに触れる」と思い、途中でやめました。

-演じる上で重視した点は?

 探偵という部分よりも、シャーロックという“変な生きもの”になれたら、ということですね。普通、事件や謎を解決するときは、必ず正義感や何らかの目的があります。だけど、彼女にはそういったものが一切ない。ただただ、目の前で起きていることに対する好奇心で動いている。なので、そこに重点を置こうと。

-シャーロック・ホームズと言えば、相棒のワトソンが欠かせません。本作でシャーロックの相棒を務めるのは、貫地谷しほりさんが演じる橘和都です。お二人の掛け合いも見どころですが、貫地谷さんとコンビを演じた感想は?

 まず思ったのが、「人を振り回すのは大変」(笑)。最初のうちは戸惑いました。今までは、相手のお芝居を受けてリアクションを返すような役が多かったので、自分から発信するとなったときに、どうしたらいいものかと。「ここかな?」というところを探り当てるのに、とても苦労しました。

-その辺りは、やっていきながら?

 そうですね。和都さんが「なぜそういう言い方しかできないの」とリアクションを返してくる。ということは「私、結構ひどいことを言っているんだな。そういうことか、なるほど」という感じで。その傍若無人ぶりをつかむまでが大変で、貫地谷さんに「どうしよう?」と、話を聞いてもらったりもしました。

-和都とのコンビを通して、シャーロックという人物をどんなふうに捉えましたか。

 最初に台本を読んだ印象では、他の誰かを必要とせず、独りでいるのが楽しい人なんだと思っていたのですが、和都さんの目を通したら、寂しがり屋な面が見えてきました。実はものすごく誰かを欲しているんだろうなと。小さな子どものようで、かわいく思えてきました。

-演じてみて、竹内さんご自身と重なる部分はありましたか。

 重ねたくないというのが正直なところです(笑)。でも、演じる以上、共感できる部分がないと理解しにくい。ということは、自分にもそういう要素が少しはあるんだろうなと。そう考えると、好きなものに対して熱く語るところや、集中したときは、人の話が耳に入らないところは私にもあるなと。ただ、台本から読み解くには謎の多い人で、最後まで鍵のかかった部屋がたくさんある感じでした。そのつかみ切れないところが魅力かな、とも思いましたが。

-シャーロックに協力を依頼する刑事・礼紋元太郎役の滝藤賢一さん、その部下の柴田達也役の中村倫也さんとの掛け合いもユニークです。現場ではどんな様子だったのでしょうか。

 私は貫地谷さんが相棒で、滝藤さんと中村さんは上司と部下の関係。いずれもどちらかが振り回して、どちらかが相手に依存している。それぞれのコンビぶりを見ているのが、お互いに面白かったです。

-4人の掛け合いの面白さは、現場でセッションするような形で生まれたのでしょうか。

 そうですね。「自分はああする、こうする」みたいな話はなく、「ヨーイドン!」で各々やってみて、そこから出てくるものを互いに感じ取りながらお芝居を返していく…。そんな感じだったので、とても楽しかったです。

-今回は配信という形でリリースされる作品になりますが、演じる側として期待することは?

 映像的な部分や言葉遣いを含めて、地上波のドラマよりも表現に幅が持てるようになりました。今までにない刺激的な表現もできるので、可能性が広がる。そこに期待するものはあります。演じる上でも、もっと自由にやっていいんだと思うと、ウキウキします。この作品でも、今までとは違う表現ができたような気がします。

-シャーロックという役を演じてみた手応えは?

 外側にある“シャーロック・ホームズ”という要素より、彼女がどんな人なのかというところを突き詰めたかったのですが、いまだに届かない感じです。最終的には不思議な人になれば…と思っていましたが、解けないところが残ったままで。まだ私にも、このシャーロックという人が分からない。この先も続くような感じで、終わった気がしません。

-もし続編があれば、さらに突き詰めたいと?

 そうですね。あの頭の回転の速さと早口について行くのは大変ですが(笑)。また機会があれば、シャーロックという人をより深く突き詰めてみたいです。

(取材・文/井上健一)