左から、内田けんじ、成井豊  撮影:源 賀津己 左から、内田けんじ、成井豊  撮影:源 賀津己

昨年の日本アカデミー賞の最優秀脚本賞に輝き、堺雅人、広末涼子、香川照之がそれぞれ主演・助演の俳優部門優秀賞を受賞した映画『鍵泥棒のメソッド』が演劇集団キャラメルボックスにより今春舞台化される。公演に先駆け、映画版監督の内田けんじと舞台版の演出を手がける成井豊の対談が実現した。

『鍵泥棒のメソッド』チケット情報

腕利きの殺し屋・コンドウが銭湯で頭を打ち記憶を失ったのをきっかけに、彼と売れない役者・桜井の人生が入れ替わることに。そこに婚活中の香苗も加わり、奇想天外な物語が展開する。

キャラメルボックスにとっても映画作品をそのまま舞台化するのは初めての試み。他の演劇人がやろうとしない挑戦にあえて手を付けた理由は単純明快。「映画に感動して『これがやりたい!』って思っちゃったから」と成井は笑う。内田も「どんな舞台になるのか、僕も想像できないからこそ楽しみです」と期待を寄せる。

成井は本作をはじめ、内田作品を貫く魅力を「善人が最終的に報われる人生讃歌」と評する。「でも絵に描いたような人生讃歌じゃ道徳の授業になっちゃう。内田さんの映画はお説教臭さのない、照れくさくないハッピーエンド。それは実はすごく難しいことで、数少ない成功例がこの映画なんです」。

内田にとっても「それは映画を作る上でずっと言ってきたこと」。成井の言葉にわが意を得たりとうなずく。「今の時代、ハッピーエンドを作るって難しい。それでもこの映画はハッピーエンドを自分の“枷”にして作りました。確かに道徳的なことは退屈だけど、逆に本当に道徳から外れたキャラにはお客さんは感情移入しないんです。そのさじ加減はすごく考えましたね」。

コンドウが記憶を失う銭湯での転倒など、映像表現ならではと言えるシーンに成井はどう挑むのか? 「考え中です(笑)。必勝法を思いついて舞台化を決めたわけじゃないので。悔しいですが、あのままやるのは無理! どうアレンジするかですね」と苦笑を浮かべつつも、なんとも楽しそうだ。

一方で演劇だからこその武器もあると言う成井。「何より“生”で桜井たちの物語を目撃できるとこと」。さらに「映画で香苗の顔がアップの時、コンドウはどんなリアクションをしていたのか? 映画では見せられないけど演劇ならできる」と自信をのぞかせる。

内田もその点について「僕も、編集で全員が面白すぎて、困ったことがありましたからね。そこは演劇ならではの魅力」と羨ましそうに語り、さらに「僕はヒントを与えずに完成したものを観客としてヒョイと見に行きたい。自由に変えていただいていいので、楽しみにしてます」とエールを贈る。29年目を迎えるキャラメルボックスが新たな挑戦で何を見せてくれるのか? 期待が高まる。

公演は5月10日(土)から6月1日(日)まで東京・サンシャイン劇場、6月5日(木)から6月10日(火)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて上演。チケットは3月15日(土)午前10時より一般前売り開始。

取材・文:黒豆 直樹