桐谷健太 (C)エンタメOVO

 人間の心の暗部を描くイヤミスの名手のひとり、真梨幸子氏原作の「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」が3月3日からWOWOWで放送、配信される。主人公の編集者のもとに “女子高生両親殺害事件”をモチーフにした小説企画が新人作家から持ち込まれたことを発端に、やがて事件の関係者はじめ登場人物たちが抱える嫉妬、劣等感、孤独など“黒い感情”の正体と事件の真実が明らかになっていく本作。主人公の轟書房編集者・橋本涼を演じる桐谷健太に本作での役作りや本作の見どころを聞いた。

-最初に本作のオファーを受けたときのお気持ちを教えてください。

 すごく魅力的で刺激的だなと感じましたし、自分が橋本を生きるとどうなるのかにすごく興味が湧きました。なので、すぐにマネジャーに電話して、「これやりたい」と話したのを覚えています。それぞれの視点によって見え方が変わってくるストーリーで、見る人によっても感じることが違う作品だと思います。一言で「心の闇」と言っても、それを悪いととらえる人もいれば、どこか懐かしさを感じたり、自分にもそれがあると親近感を感じる人もいると思うんですよ。この作品は、まさにそうした作品になっていると感じました。

-具体的に、橋本を演じてみたいと思ったのは、どのような理由からだったのですか。

 橋本を自分が生きたらどうなるんだろうと率直に思ったからだと思います。単純に、挑戦したいと思ったというのが大きな理由かもしれません。クランクインする前に、自分の中で橋本という人物を築き上げていき、彼の過去と向き合い、どんどん純度を高めて自分の中に染み込ませていった感覚でした。役を作る上では、監督と一見普通の人なんだけれども、違和感がある人物として演じたいという話をさせていただきました。「なんか引っかかるな、この人」「なんだか不気味だな」と思わせるような役にしたかった。例えば、大きな事件があった後に、近所の人にインタビューしたら、「あいさつをする明るい、いい人でしたよ」と話す人もいれば、「前からちょっと怖いと思ってたんですよね」と話す人もいるじゃないですか。それと同じように、本性が分かってから急変するのではなく、人によって見え方が違う人物にしたいということを監督にお話ししたら、監督もそれでいきたいとおっしゃってくださったので、クランクインしてからは考えずに演じられましたし、すごくうまくハマった感覚がありました。

-撮影で印象に残っているシーンは?

 先ほどもお話した「なんか引っかかる」「ちょっと不気味だな」という橋本の違和感の部分がドバッと出るのが(橋本良亮が演じる)大渕秀行と対話するクライマックスのシーンなのですが、撮影が終わった後に、スタッフさんから「とてつもないシーンだった」とおっしゃっていただいたことが印象に残っています。自分としては何も考えずにやれたのですが、そう感じていただけたならよかったなと。

-橋本は、非常に複雑で二面性のある役でした。そうした役を演じたことで、自分自身の中でも何か変化があったのではないですか。

 それは、絶対にあると思います。もちろん最後までストーリーは分かっているのですが、この役を演じる上では、その瞬間に自分が感じたことを大事にしました。直感ですね。今までの経験から直感で言葉選びをしているのかもしれないですし、逆に今までの経験は全く関係なくて、でもそのおかげで心の扉が開いた状態で言葉が出るようになったのかもしれませんが、スッと入ってきた感覚を大切にしたいと思って演じていました。今回、誰に頼まれるでもなく、体重を増やして演じたんですよ。橋本は鋭利な印象があるので頭で考えたら痩せる方向にもっていきたくなったと思いますが、直感的に体を大きくしたいと思ったんです。橋本がムチッとしていたら、奇妙な感じがあって、ちょっと気持ち悪いんじゃないかなと思って。

-直感から役を育てていくということですね。

 必ずしも毎回、直感的に分かるわけではなくて、台本を読んでも全然理解できなくて、衣裳合わせで衣裳を着た瞬間に分かることもあれば、動物が思い浮かぶ時もあります。実は人間の皮をかぶっているトカゲみたいなイメージだなとか。あとは、友達のあいつに似ているなとか。毎回、そのアプローチの仕方は違いますね。

-本作では、新人作家・小椋沙奈役の倉科カナさんとのシーンが多かったと思いますが、倉科さんとの共演はいかがでしたか。

 3回目の共演だったということもあり、待ち時間にくだらない冗談を言い合えて、すごくやりやすい環境を作ってくださいました。カナちゃんは、役に入る姿勢がすごく真摯(しんし)な人なので、一緒にやっていて楽しかったです。初めてご一緒した時は、彼女が中学生で僕が高校生という兄妹の役だったのですが、その後、10年以上経って婚約者の役をやり、今回は編集者と作家という役。それぞれ全く感覚の違う関係性で演じてきたので新鮮でもありました。

-本作では、SNSも重要なツールになっていますが、桐谷さんはSNSを使う際に気を付けていることはありますか。

 そもそも僕は、ほとんどSNSは見ないんですよ。ネットニュースもあまり見ないです。なので、SNSは僕の人生の一部ではないですね。きっとSNSの問題点を感じている人はたくさんいると思います。僕は自分が見て気持ちいいものを見ていけばいいんじゃないかなとは思います。SNSも良いと思いますが、僕はそれよりも散歩したいなとか、おいしいものを食べたいなとか、例えば芝居のための役作りで体を絞っていこうとか、そういうのが好きで楽しいのでやっています。自分が楽しいと思えることをやれば良い。

-では、橋本だけでなく、登場する人物たちの二面性が描かれている本作ですが、桐谷さんはご自身の中の二面性があると考えていますか。

 自分では分からないですね。例えばバラエティーに出演していた姿を見た方が、こうなんだろうというイメージを持っていて、それで実際に会った時にまた印象が違うと言われることはありますが、僕自身としては、自分のどの面を見ているのかによって違うだけだと思うので。そういう意味では、自分の中に二面性があるから人にも二面性を感じるのだろうと思います。もし、自分の中に一面性しか見なかったら、人に二面性を感じないんじゃないかなと思います。トーク番組に出ていればもちろん話をしますが、自分の中には静かな部分もあって、一人が好きでボケっとしている時間も好き。テレビに出るからには必ずどこかでスイッチは入れているので、そうしたテレビとは違うところはあるのかなとは思います。

-役者の場合、演じている役柄のイメージもあるのかもしれませんね。

 それも大きいと思います。悪い役とか、逆に明るい役が続く時は、そのイメージで見られがちです。自分は自分でも、どんな役を演じたかで印象は全く変わります。なので、そうした人の視点というものは、客観的に見るようにしています。

-最後に改めて、本作の見どころを教えてください。

 登場人物たちの渦が渦を呼び、どんどん大きな渦になってくるこの感覚は、見ている人にとってはすごく居心地が悪かったり、かたや懐かしさや親近感を覚えたりする。そんな作品になっていると思います。ぜひ巻き込まれてほしいです。きっと目が離せない作品になってるので、楽しんでいただけたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」は3月3日から、毎週日曜午後10時にWOWOWプライム、WOWOW4Kで放送スタート。WOWOWオンデマンドにて同日に配信スタート。(第1話無料放送)