『ロボコップ』

『トータル・リコール』、『キャリー』など、70~80年代にカルト的な人気を形成した作品の再生がちょっとしたブームだが、「なぜ今?」という動機が仕上がりに現れていないケースが多かった。しかしこの『ロボコップ』は、新しい作品にアップデートさせる、作り手の強靭な意志がみなぎっている。物語の基本は、87年の旧作と同じだが、作品のテイストは大きく異なると言っていい。冒頭でいきなり、シビアな世界情勢を激しい戦闘映像で突きつけてくるのだ。

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イランのテヘランで、巨大企業オムニコープが開発した二足歩行ロボットED-209 が、テロリストらしき敵を制圧している。現在のアクション超大作らしいダイナミズムに、ED-209 という旧作の人気キャラを巧みに組み込むあたりに、従来の『ロボコップ』ファンにもアピールする試みがみてとれる。とはいえ、旧作で有名なED-209 の階段ズッコケのような、愛すべきアナログ感とユーモアは薄味なので、旧作ファンは少し不満を感じるかもしれない。これは、ティム・バートン監督から始まった『バットマン』が、クリストファー・ノーランによって『ダークナイト』で示したシリアス化を連想させる。黒く化したロボコップの外観も、その進化を顕示するかのようだ。

シリアス化は当然、リアリティも要求する。ロボットの内部で、どのように人間の肉体が残され、機能しているか? この部分をややどぎつい映像で見せるほか、旧作では強調されなかった主人公の家族ドラマにも深く切り込み、生々しい苦悩を浮き彫りにしていく。ただし、作品全体の印象は『ダークナイト』ほど暗くはない。フランシス・ベーコンの絵画や『オズの魔法使』のブリキ男といった引用ネタに遊び心が感じられるし、オープニングで、有名なMGMのロゴマークのライオンを“いじる”あたりに、監督のユーモアセンスが感じられる。『アベンジャーズ』では冷静なサミュエル・L・ジャクソンの過激っぷりなど、映画好きに向けた笑いどころも多い。そのサミュエルに代弁させた、巨大国家への痛烈な皮肉に、ブラジル出身のジョゼ・パリージャ監督の密かな思いが込められたのではないか。「なぜ今?」の動機は、そこにも見出せる!

『ロボコップ』
公開中

文:斉藤博昭