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 4月1日から放送開始となるNHKの連続テレビ小説「虎に翼」。日本初の女性弁護士、のちに裁判官となる三淵嘉子の生涯をモデルに、ヒロイン・猪爪寅子が、困難な時代に立ち向かい、情熱をもって道を切り開いていく物語だ。放送開始を前に、主演の伊藤沙莉が、クランクインから半年が経過した現在の様子を語ってくれた。

-クランクインして半年近く経った今のお気持ちは?

 撮影前は、いろんな方から「朝ドラの撮影は大変だよ」と言われていましたが、とても楽しい日々を送らせていただき、今のところ大変さよりも、楽しさの方が勝っています。もちろん、大変なこともありますが、支えてくださる方もたくさんいますし、「いいものを作る」という方向性はみんな一緒なので絆も深まり、充実した日々を過ごさせていただいています。

-朝ドラ主演が決まったときの周囲の反響は?

 周囲は決まったときから楽しみにしてくれていて、皆さん、寅子のモデルになった三淵嘉子さんが、「日本初の女性弁護士」という点にも関心があるようです。ただ、朝ドラで「法律もの」が題材になるのは1996年の「ひまわり」以来ということで、どんな作品になるのかイメージしにくいらしくて。でも、きっと皆さんに「面白い!」と言っていただける作品になると確信しています。

-寅子をどんな人物だと捉えていますか。

 寅子は、一言多かったり、思ったことをそのまま口に出してしまったりして、母親から怒られることも多いんです。でもそれは、裏を返せば、自分の意見をきちんと言えるということ。だからこそ、「おかしい」と思ったことを変えていけるんだろうなと。綺麗事を言ってしまうこともありますが、それがあまりにも真っ直ぐ過ぎて、人の心を動かしてしまうなど、いい方向に作用することもありますし。そういう意味で、寅子は生まれながらにして、法律の世界に進むべき人だったような気がします。そういうところが寅子の魅力ですが、私自身も突拍子もないことをするのが好きなので、演じていてとても楽しいです。

-寅子の母・猪爪はる役の石田ゆり子さん、父・直言役の岡部たかしさんたちとの家族の撮影現場の雰囲気はいかがですか。

 とてもいい雰囲気です。みんなで楽しく話をするときもあれば、誰かがふらっとどこかへ行ってしまっても気にならない、本当の家族のような雰囲気があって。食事のシーンでは、出てくる料理がおいしすぎて、「終了です」と言われても、みんな座ったまま「これおいしいよ」などと話しながら、そのまま食事を続けたり…。しかもそれが、ちゃんと家庭の食卓になっているんです。そういう楽しい時間が多くて。

-法律を学ぶ寅子は大学にも通うようですが、大学のシーンはいかがでしょうか。

 女性ばかりの大学のシーンは、とてもにぎやかです。例えば、寒がりの桜井ユキ(華族のお嬢さま、桜川涼子役)さんが、みんなに防寒グッズを配ってくれたときは、「温かい!」と盛りあがったり、韓国出身のハ・ヨンス(留学生、崔香淑役)さんには、難しい日本語をみんなで説明してあげたり…。ただ、盛り上がりすぎて注意されることも多いんですけど(苦笑)。

-法律の世界が舞台ということで、事前に準備したことは?

 たくさんの本や資料をいただいた上、三淵嘉子さんの母校・明治大学で、4回ほど授業を受けさせていただきました。そうしたら、寅子が「なぜ?」と疑問を感じるのも当然だな、と思うような法律が、今も当たり前に存在していることが分かって。離婚したときの子どもに対する親権も、昔は父親だけにしかなかったり…。そういう背景を知ることができたのは、演じる上でとても参考になりました。大学にも通ったことがなかったので、楽しかったです(笑)。

-弁護士や裁判官など、司法関係の仕事に対するイメージは変わりましたか。

 私は今まで、法律は当たり前のようにあるものだと思っていましたが、今回初めて、いろんな疑問を持つ方たちがいたおかげで、現在のような形になってきたことを知りました。しかも、今も決して完璧なわけではなく、まだまだ改善の余地があるんだなと。そんなふうに、皆さんが大変な思いをしながら、法律をよりよい形に変えてきたおかげで、私たちが今、平穏に暮らすことができている。そういう成り立ちを知ることができたのは、演じる上ではもちろんですが、私自身にとっても勉強になりました。

-「ひよっこ」(17)以来の朝ドラ出演ですが、気持ちの上でどんな違いがありますか。

 「ひよっこ」は、基本的に(泉澤祐希さんが演じる)三男と一緒の場面が多かったので、三男とのグルーヴでその場面が面白くなれば…という感じでした。でも今回は、シーンごとに考えるのではなく、トータルのバランスが大事だなと。撮影が長期にわたるので、「このシーンはここにつながるから、ここではこのくらいがいいかな…」と全体的な計算をしていかないと、混乱しそうで。午前中に出産シーンを撮ったその日の午後、高校生の場面を演じるようなことも多いですし。そういうブレが生じないように思考を働かせるのは、初めての経験です。ただ、朝ドラ特有のスピード感は「ひよっこ」で経験していた分、戸惑わずに済みました。

-4月からの放送が楽しみですが、伊藤さんにとって、この作品はどんな位置づけになりそうでしょうか。

 確実に代表作になると思います。後々、自分の人生を振り返った時、絶対に外せない期間だろうなと。とても面白い作品ですし、寅子には自分に近いところがあって楽しい一方で、挑戦的な部分もあって。同時に、人との関わり方や物の伝え方も撮影を通じて学んでいるので、人間的にも成長できる期間ですし。私自身が撮影期間中に30歳を迎えるというタイミングなど、いろんなことが重なっているので、生涯で一番大事な作品になると思っています。

(取材・文/井上健一)