中でも、プチョン国際ファンタスティック映画祭のマネージングディレクター、ジョンスク・トーマス・ナムさんは“ゆうばりはもっとディレクターを育てていかなければいけないんじゃないか”ということをすごく気にされていて。その人の“今”の瞬間ではなく“今後”に期待する、“点”ではなく“線”で考えている目線が素晴らしいなと思いました。

そんな中、僕の最後の一手は”ゆうばり”で出会った映画を志す若い人たちとのコミュニケーションの中から感じた自分なりの意見でした。それを押し通したんですけどね」

才能ある若者が活躍できる場が、日本は足りていないと思う

 

クローン人間との恋を描いたグランプリ作品『さまよう小指』
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それが何を意味するのかは3作品を観ていない人には伝わりにくいかもしれない。だが、斎藤工の眼差しがどこに向いていたのかは、今回、審査員をまっとうして大きな刺激を受けた彼の次の言葉から分かるはずだ。

「才能のある若者が活躍できる土俵や、彼らのスキルを磨けるような環境は日本には足りていない。

そういったものの必要性を、映画祭の主催者や映画の製作に携わる人たちだけじゃなく、僕たちのような表舞台に出るような人間も問題提議していくことに意義があると思うんですよ」

実際、映画祭期間中、すし詰めの屋台村で、若い監督たちと酒を酌み交わしながら明け方まで映画について語り合っていた彼の言葉にどんどん熱がこもってくる。

 

グランプリ作品の監督は31歳の女性

「ほかの自主製作映画の映画祭にも顔を出しているけれど、ビックリするぐらい面白い短編を撮る人がいるんですよ。

その人が長編を撮ったら面白いなと思っていて、自分と同じような気持ちになる大人を増やしていくのが僕の責務だと感じているから、資料をいろいろなところに配って勝手にプロモーションをしているんですけど、その活動をもっと広げていかなければいけないと思いましたね」

その点では、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の今後にも大きな期待を寄せている。

「“ゆうばり”に集まってくる才能と、理論ではなく、同じ熱量で向き合える大人たちが審査員やゲストなどの映画祭の関係者にもいることがポイントになると思いました。

僕は一役者として、今回のコンペの作品の中にも、この監督の作品に出たいと思うものが何本かありましたからね。逆に、自分が出ることで作品が変容してしまうといけないので、どういう関わり方がいいのか分からないけれど、援護射撃はできる。

例えば、自分の知り合いの配給会社の人に観てもらったり、キャスティングのお手伝いをしたり……。作品の惚れ方や愛し方はさまざまだし、ただ役者として“使ってください”というのではなく、いろいろなスタンスで関わっていけたらいいなと思っているんです

「撮るべき人っているんですよ。監督になるべき人たちっているんですよ。その人たちが撮るべきだと思います」と力説する。